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土台をただ引き継いだだけでは勝つことができない

 一方、前掲書には「名将の条件」として次の6項目が挙げられている。「1.野球ファン、スポーツファンに好かれる性格であること。2.奥さんの性格・行動には十分留意し、管理できること。3.口がうまいこと。4.勝つこと。5.参謀・コーチに人を得ること。6.球団フロントに人材がいること」。緒方監督の妻・かな子さんはタレントとして広島のテレビに出演するなど好感度が高いし、そもそも勝っているし、十分に名将の条件を備えているようにも見える。しかしその「勝ち方」が取り沙汰されることもある。

 リーグ3連覇を支えた主な勝ち方は「逆転のカープ」と表現されるような逆転勝ちであった。2016年には89勝中45回、17年には88勝中41回、18年には82勝中41回が逆転勝ちという驚異的な数字を挙げた。しかしこれは「一歩間違えれば負けていたかもしれない」数字でもある。今シーズンの40勝のうち逆転勝ちは11回のみ(7月19日現在)。一方、先制されてそのまま負けた試合が30試合。すなわち「逆転できなかった」敗戦だ。逆転勝ちできない理由が打線の不調にあるとなると、「打線頼みで策を講じていない」と批判を受ける訳である。

 そもそもそのリーグ3連覇を支えた強力打線からして、前任の野村謙二郎監督が造り上げた土台を継承しただけではないか、と言う人もいる。野村監督は丸、菊池を将来のチームリーダーになる存在として抜擢し、鈴木誠也を育成し、長距離砲の必要性を訴えてエルドレッドを獲得した。3連覇を支えたのは確かに彼らの存在である。しかし緒方監督就任1年目の2015年、菊池、丸を含めた打撃陣はつながりを欠き、CS出場を賭けた最終戦で負けて4位に終わったことを考えれば、土台をただ引き継いだだけでは勝つことができないということもわかる。3連覇は、確かに緒方監督の功績なのである。

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緒方監督を印象付ける言葉

 上記の名将の条件に緒方監督があてはまらない項目があるとすれば、「3.口がうまいこと」ではないだろうか。緒方監督は決して饒舌な方ではない。かつて名将と呼ばれた監督は、たとえば鶴岡一人監督(南海)の「グラウンドにはゼニが落ちている」だとか、野村克也監督(南海・ヤクルト・阪神・楽天)の「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」など、自らを印象付ける言葉を持っていた。今後緒方監督が「名将」と呼ばれるにあたっては、こうした「言葉」が必要なのかも知れない。

 緒方監督を印象付ける言葉を思い出してみると、「ホントニ」という言葉が浮かぶ。過去3年間の優勝時の監督インタビューにおいて、緒方監督は2016年に11回、17年に35回、18年に14回も「ホントニ」を用いた(参考までに、先日のオールスター第2戦の勝利監督インタビューでは9回)。特に回数の多かった17年の会見で、感極まった緒方監督は「……ホントニ選手たちをホントニ……(言葉に詰まる)……そう、(選手達の方を向いて)ホントニご苦労さん! お疲れさん! ホントニ、頼もしい奴らだホントニ!」と叫んだ。一つのセンテンスの中にこれだけ「ホントニ」を頻出させるのは、緒方監督の優勝インタビューと富士サファリパークのCMぐらいであろう。

 この「ホントニ」を我々が聞くことができるのは優勝監督インタビューの時ぐらいである。緒方監督が名将かそうでないかはさておき、この「ホントニ」が一回でも多く聞けることを願ってやまない。

緒方監督のここがすごい ©オギリマサホ

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