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「石橋ノート」で養う「整理する力」

 西武黄金期の正捕手を務めた伊東勤ヘッドコーチは、捕手にとって一番大切なのは「メンタル」だと断言している。そんな伊東コーチが石橋の初陣を見て、「物おじせず、オドオドしていないところがいい」と褒めたのだから、メンタルの面では申し分ないと思う。

 ただし、本人の自己評価は「どちらかというとメンタルは弱い方」で「どちらかと言うとネガティブ」。だが、心配ご無用。石橋が目標とするソフトバンクの甲斐も、甲斐が尊敬する野村克也氏も「ネガティブでないと捕手は務まらない」と口を揃える。不安を正面から見つめ、細心の注意を払うからいいプレーができるのだろう。

 メンタル強化のため、石橋が最近読んだのが『自分を強くする動じない力』という本。ただの自己啓発本ではない。著者の荒谷卓氏は、陸上自衛隊で日本最初の「特殊部隊」を立ち上げた人物。戦地で死と隣り合わせになった軍人のメンタルの保ち方を学んでいるというのだから恐れ入る。

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 一方、ネガティブな部分を克服するために石橋が重視しているのは「書く」ことだ。高校時代から大小のノートを使い分けて気になった言葉、読んだ本に書かれていることを徹底的にメモして、頭を整理しているのだという。

「教えられた事は書くようにしています。家族からの言葉、ファンの皆さんの言葉、1つ1つが力になります」

 初スタメンの日もノートを開いて「慌てていいことはない」という言葉を引き出して頭に叩き込んだ。伊東コーチ、中村武志バッテリーコーチからもらった言葉だった。試合後は「どういった状況でも慌てないように、あらゆる過程を想定した」とコメントしている。ピンチでもパニックにならず、頭の中が整理されている捕手なんて頼もしいことこの上ない。

 そういえば、ネットで「高橋周平よりしっかりしている」という声が相次いだ初めてのヒーローインタビューでも淀みなく言葉が出てきていた。思考が整理されている証拠だ。1軍合流後、石橋の試合での声出しを聞いた京田陽太は「まるでキャプテンみたいな感じで、しっかりと言葉を選んでモノを言っていた」と驚いていた。

「1年目でも正捕手を狙う気持ちは変わらない。将来は日本を代表する捕手になりたい」

 そんな言葉がビッグマウスに聞こえない18歳。正念場の夏の戦いに向けて、もっと出番が増えるはずだ。いや、増えてほしい(3連敗したDeNA戦では一度も出番がなかった)。石橋康太に捕手王国の再建を託したい。

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