その一方で不可侵の存在としてストライクゾーンをコントロールすることが、MLB内部で問題視されていた。ルールブックに比べ、極端に外角、そして低めに寄った大リーグ独特のストライクゾーンを是正するためリーグが動き始めたのが1999年であり、同年の労使闘争の結果22人の審判員が職を失った。その後、映像による審判員の裏査定が始まり、機械判定へつながる流れとなった。MLBがALPBの全球場にレーダーシステムを設置したのは、もちろん大リーグでの機械判定導入をにらんでのことだ。
“ロボ球審”のカギはゾーンの高低
ストライクゾーンの幅はベースによって規定されるが、高低は打者の体格と構えによる。公認野球規則では「打者が投球を打つための姿勢」を基準にして、ルールにあるゾーンの高低を適用するとしている。ALPBのリック・ホワイト会長によると、機械判定では各打者のデータベースに従ってゾーンを設定すると同時に、MLBから派遣されたオペレーターがレーダーシステムを操作するという。機械が下した判定は、球審がつけたイヤピースへ音声信号で送られる。
昨夏の記者会見では機械判定導入に消極的だったMLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーが独立リーグでのテスト導入を決断したのは、技術への信頼が高まったからだろう。ただし4月下旬の開幕に予定されていた導入は、7月にずれ込んだ。投球の軌道を追尾するレーダーの問題は少なかったが、オペレーターと球審の連係確立に時間がかかったという。音声信号の調節やハッキング対策の確認を繰り返した。
日本のプロ野球では、データスタジアム社などがトラッキングデータを使った情報サービスを展開する。同社でシステム開発に携わる池田哲也氏とデータ解析を専門とする山田隼哉氏は、米国の機械判定の方法だけでなく、導入が球界にもたらす影響に注目している。
ストライクゾーン変化の「影響の大きさ計り知れない」
池田氏は、機械判定導入で予想されるストライクゾーンの変化について「いわゆるフライボール革命などはデータ利用による間接的な影響。機械判定は直接的な変化で、影響の大きさは計り知れない」と話す。ルールブックのストライクゾーンは、実際に運用されているゾーンより高めが広いと言われる。機械判定でルールブック通りのゾーンとなることで、混乱が生まれる可能性はある。
山田氏は「1試合の中での安定感があれば、選手に受け入れられると思う。それは人間の審判と同じ」と成功が安定感に懸かっていることを強調する。同社の取締役執行役員で、ヤクルトで投手として活躍した松元繁氏は「一貫性があれば選手は受け入れるはず。感情的にも『機械が言うなら仕方ない』とプラスに働くのではないか」と選手の観点から語った。