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現場には歓迎の声が多い理由

 米メディアには“ロボット球審”が野球の伝統を壊すとの批判的な意見もあるが、ALPBの現場には歓迎の声が多い。外野手としてメッツで活躍したロングアイランドのウォリー・バックマン監督は「判定が正確になるのは分かっている。昨年大リーグで91%と言われた球審の“正解率”が98、99%になる。これは野球が良くなるということだ」と強調する。

 ただし予想されるストライクゾーンの変化については楽観していないようだ。バックマン監督はナ・リーグで9年プレーし、初めてア・リーグのツインズに移籍した1989年に極度の不振を経験した。当時は審判員がリーグで分かれており、ストライクゾーンが大きく違ったという。「選手には戸惑いがあるだろう。だからこそMLBは選手のフィードバックが必要なのだと思う」と経験に照らして話す。それでも「ルールブック通りにストライクを取ったらどんなものなのか、見てみないとな」と導入を待ち望む。

ロングアイランドのウォリー・バックマン監督

 2011年に巨人でプレーしたランカスターのジョナサン・アルバラデホ投手コーチは、機械判定導入直後は打者有利になるとみる。「投手は高低よりも内外角で勝負することの方が多い。機械判定でルールブック通り高めが広くなるだろうが、高めを使える投手は少ない。むしろ外角が狭くなって苦しむのでは」と説明する。

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見逃し三振の3ストライク目の29%が実はボール

 ロングアイランドのリンチ投手コーチは、機械判定に「大賛成だ」と言い切る。「リプレー検証が導入されてから、ファンは常に正しい判定を望むようになった。審判員にとって大変な時代。自分がもし審判員なら機械判定を受け入れる」。大リーグのGM経験者だけに、球界が進む方向を敏感に感じ取っているようだ。

 ボストン大学講師のマーク・ウィリアムズ氏が4月に発表した判定の正確性に関する研究が“ロボット審判”の是非を論じるメディアで話題となった。昨季までの大リーグ11シーズンで、見逃し三振の3ストライク目の29.19%が実はボールであったというのだ。

 

 かつて選球眼の良さが評価された松井氏は、「そうじゃないと打者はあんなに文句は言わない」と苦笑しながら「自分のストライクゾーンを確立しているなら、最後は神頼み。ストライクと言われたら諦めるしかない。(機械化は)それを少しでもなくそうという動き」と語った。

 バックマン監督は審判員への激しい抗議で知られる。2007年の試合で退場処分となった後も怒り続け、バット22本をフィールドに投げ込んだことは今でも語り草になっている。「もうストライク、ボールでは抗議できないな」と抗議からの“卒業宣言”をしたと思いきや「一塁とか別のところですることになる」と懲りていないようだ。

写真=神田洋