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「3万年前の航海」達成 海部陽介代表が満島ひかりさんに語った“日本人の謎”

海部陽介(国立科学博物館)×満島ひかり(女優)

一番の謎は「舟の材質は何だったのか?」

満島 一昨年に与那国島から西表島までテスト航海されたじゃないですか。そのとき実際に先生も古代の舟に乗ってみて、どうでしたか。

海部 そのときは草の舟を作ってテストしました。じつはプロジェクトの一番の謎は、祖先が乗っていた3万年前の舟の材質は何だったか、なんです。

 舟については遺跡に残っていないんですけど、4つの条件があります。1つはその後の縄文時代に丸木舟が存在したことが分かっているので、丸木舟以上の舟ではないこと。縄文時代の技術を超えてはいけません。2つめは地元にある材料しか使えない。3つめは当時の道具でも造れる。最後に、海に出て機能する、つまりちゃんと舟として航海できる。その4つの条件をクリアできる舟は何かというのを探しているんですね。

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今年のテスト航海で試した竹筏の舟。スピードが十分でなく竹が割れてしまった ©「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」
“3万年前の石斧”で能登の杉を切る実験 ©「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」

草の舟と竹の筏はスピードが出なかった

満島 最初はいくつか候補があって、いま先生たちが行き着いた木の舟ではなかったんですよね。

海部 初めに与那国島から西表島で草束舟を試したんですが、スピードがあまり出ず、潮に流されてうまくいきませんでした。それから台湾で試した竹筏舟もあまりうまくいかなかったんです。やはりスピードが不十分で、さらに竹が割れてしまうんです。それで行き着いたのが、丸木舟なんです。これが丸木舟用に僕らが能登の山で切ってきた杉です。

来年の台湾~与那国島への本番航海へ向けて、製作途中の丸木舟 ©深野未季/文藝春秋
満島さんも実際に丸木舟を彫る体験をした ©深野未季/文藝春秋

満島 けっこう長いですね。横にも長くて、これ、列になって座るんですか。

海部 まだ作っている途中で、ずっと彫っていくんですけれども、完成したときに、だいたい4、5人乗り、そういう舟がやがてできていくと思います。

満島 どうして最初にこのプロジェクトをやってみようと、興味を持たれたんですか。

海部 遺跡の実態を考えたら止まらなくなって。だってすごいじゃないですか。3万年前まで遡る遺跡が琉球列島の各地で見つかっているんです。つまり3万年前には祖先たちが黒潮を渡って、琉球列島全域に辿り着いている、これは事実なんです。