「自分のことは所詮、情報屋で売文屋だと思っています。ジャーナリストの専門教育を受けたわけでも、アカデミックな思想史を学んだわけでもありません。だから、タイトルはフックですよ、フック(笑)」
かつて世界を混沌に陥れた妖怪のような幾多のイズム。信者に死をも恐れぬテロを強いるナントカ教。一般市民の感覚からは到底理解のできない、危ない思想について書かれた本――などと思って手に取ると、まんまと丸山ゴンザレスさんの罠にはまることになる。
「殺人者は何を考えて人を殺しているのか、ただそれだけのことが書いてあるシンプルな本なんです。なにか人間性の秘密がここにあるぞとか、理解できない人間の異常な発想を解き明かした、とかそういうものでは全然ありません。実際に人殺しに会って、どういう理由でなんのために殺しに手を染めたのか? では、自分の性を売る人間は? ドラッグに溺れる人間は? それだけを淡々と書きました。考古学をやっていたことがあるので、とにかくまずは事実の発掘しかない。そうして見えてきたばらばらの点をつないで全体像をつくっていくやり方しか知らないんです」
世界各地にある闇社会やスラムを取材の現場にした。
「英語は多少できますが、ネイティブと込み入った話ができるほどではありません。だからインタビューも基本的にはショートセンテンスで一問一答というスタイルになりましたね」
殺し屋は誰をどんな理由で殺すか気にしない。「仕事だから」と言う。治療費や修理代を払うより、死んでくれた方が賠償金が「安いから」交通事故で相手の息の根を止める。社会のタブーを越える人間の行動原理が、拍子抜けするほど単純であることが見えてくる。
「日本に住む人からみると、理解できないまったくの他者のように映るかもしれませんが、それは違うんじゃないかと思うんです。民族や習慣は違えど、僕らも人殺しもマフィアも同じ人間なんですよ。途上国のスラムを取材していると悪事を働く理由に『おじさんに言われて』『いとこのため』というフレーズが出てきます。日本じゃめったに聞かない理由だから一瞬理解できないような気がしますよね。でもそれは、日本が核家族化が進んで血族関係を忘れたからに過ぎないのではないでしょうか」
犯罪者の考えることは理解不能。外人のやることはわからない――そんな言い回しが真っ赤なウソであることを本書は教えてくれる。
「善悪について議論したいわけじゃない。強調したかったのは、他者を舐めるな、甘く見るな、見くびるなということです。どうせ理解できない、どうせ外国人と高を括っていると痛い目を見ることになる。本書のタイトルトラップも、思想じゃない、掘り下げが甘い!と舐めてくる人へ向けているわけです。なんだか伏線を回収するようですが、そういう態度こそが本当の意味で危険な思想だと思います。こんな理屈で生きている人間がいることを知っていれば、海外で命拾いできるかも知れない。それだけでも本を書いた意味があります」
本書を読んだ日本人は、きっと考え方が変わる。
「外国人からすれば、日本人だって十分理解不能な連中なんですよ。ドラッグに厳しいくせに高アルコール度数の缶チューハイが持て囃されているのは驚きだし、『お・も・て・な・し』も単にトロいだけのサービスに映る場合もある。それこそ『日本の危険思想』って本が書けるくらい、日本も十分危ない国ですよ(笑)」
まるやまごんざれす/1977年、宮城県生まれ。ジャーナリスト、編集者。TV番組「クレイジージャーニー」に“危険地帯ジャーナリスト”としても出演中。著書に『アジア「罰当たり」旅行』『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』など。