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 ふだん私たちは、人間とは深遠なものであると信じたい一心から、オリジナルな思考や親から受け継いだ身体的特徴、人生を経る中で培った顔つき・表情に、一人ひとりの尊くてかけがえのない個性が宿るものと思い込んでいる。

 でも、案外そうじゃない。人がそれぞれ異なるのはたしかだけれど、違いなんてじつはごくわずかだ。歩くときの姿勢とか顔の輪郭、せいぜいそういったささやかな「しるし」によって、人は人を認識しているに過ぎないんじゃないか。

「らしさ」なんてそんなものさ、「差」なんてとるに足らないことだ。ジュリアン・オピーのそんなメッセージが、会場にいるとわかりやすく伝わってくる。

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日本文化との高い親和性

 とるに足らないものやその差異に目を向けて、最小限の要素で表現をするのがジュリアン・オピー流。これが私たちの胸によく響くのは、そうした手法が日本の美の歴史と親和性が高いからでもある。古来日本では、17文字で情景を表す俳句や、31文字で人の感情や「もののあはれ」を体現させる短歌、たった3畳の部屋に小宇宙を形成する茶の湯、壮大な眺めを他のものに見立てながら凝縮する日本庭園と、小さくまとめるのが得意で大好きだった。そのことを、オピー作品が改めて教えてくれるのだ。

 

 抽象表現になるギリギリ手前で踏みとどまって、人が人である要件を教えてくれる絵画や立体作品が、会場には所狭しと並んでいる。親しみやすさとおかしみに満ちたオピーの独自な世界を、ぜひ体感されたい。