22歳の時、北極点から南極点までを人力で踏破する「Pole to Pole」プロジェクトに参加し注目を浴びた。翌2001年にはエベレストに登り、七大陸最高峰登頂に成功、これは当時の世界最年少記録となる。他にも、世界中の様々な場所を旅してきた石川直樹さん。しかし彼は自分のことを「冒険家」と思ったことは一度もないという。

「前人未到の場所を目指してるわけでもないですし、冒険家といわれると違和感があります。消去法で考えて一番嘘がないのが“写真家”で、本当は肩書きではなく名前だけで呼んでもらうのが一番しっくりきます」

 現在、水戸芸術館で開催中の『この星の光の地図を写す』は、そんな石川さんの活動を網羅した写真展となった。先史時代の壁画群を撮影した『NEW DIMENSION』、日本各地の来訪神信仰にフォーカスした『MAREBITO』など、これまで点でしかなかった各プロジェクトが、石川直樹という個人を背景に線として繋がりだす様は、まるで星座を描くかのよう。初期作から最新作まで、ここまで総括的な展示は初めてのことだそうだ。

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「40歳を目前に、自分のことを振り返るいい時期だったかもしれません。高校2年の時にインドに行って以来、文字通り突っ走ってきましたからね。これだけ水平方向にも垂直方向にも旅をしている人は、世界中を見渡しても珍しいと思いますよ(笑)」

 常々「日常を誇張したような写真は撮りたくない」と話す石川さん。写真の撮り方には彼なりのルールがある。

シリーズ「K2」(2015)より

「きっちりフレームを決めるような撮り方はしていません。標準レンズしか使わないので、機械に頼るズームもしない。寄りたいなら、自分が近づいてみる。何か理由があって近寄れないなら、その距離が写真にそのまま写ってきます。いいなと思った瞬間にシャッターを切って、飛び込んでくる光をカメラで受け取っているような感覚ですね」

 名文家としても知られ、著作も十数冊を数える。今回の展示では、そんな石川さん自身の文章も写真と並列に紹介されている点がユニーク。

「文章も写真と一緒です。見たものを誇張することなく、そのまま提示したい。写真は言葉が追い付いてこないものを反応で撮ります。それが文章と写真の違いですかね」

 展覧会は2年をかけて全国を巡回する予定。それが終われば、また興味の湧く方へ旅に出かけるかもしれない。

「今、『TIMELINE』という演劇のプロジェクトで福島の中高生を撮影しています。通学路を一緒に歩いて話しながら撮影しているんですが、彼ら彼女らは同じ言語を使っているのにまったく見ている世界が違うので驚かされます。大げさじゃなく、彼らの中にヒマラヤの山々と同じくらいの驚きを感じていますね」

いしかわなおき/1977年東京都生まれ。写真家。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。写真集『NEW DIMENSION』、『POLAR』で、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞、『CORONA』により土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』ほか多数。

INFORMATION

『この星の光の地図を写す』
水戸芸術館現代美術ギャラリー(茨城・水戸)にて2月26日まで開催中
http://www11.arttowermito.or.jp/gallery/gallery02.html?id=455