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スポーツ紙の何かを変えるために……ツイッターで選手の“表情”を伝える意味とは?

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/07/30
note

紙面をより面白く読んでもらうための仕掛け

 例えば、新キャプテンの糸原健斗。囲み取材やテレビインタビューなどでは当然「チームが勝てて良かったです」「2番の仕事ができました」といったコメントをすることが多いが、先日、こんな一コマがあった。前日に連敗を6で止めたチームは21日のヤクルト戦にも勝利して久々の連勝。その試合後、各選手のぶら下がり取材が慌ただしく行われる中で、1人で引き揚げてきた糸原は、通りすがりに今まで見たことのないような満面の笑みで「ナイスゲーム!」と一言、言い残してクラブハウスへ消えていった。

 時間にして3秒程のことなのだが、おそらく囲み取材では発しない言葉と表情。かといって、オフレコの類でもない。そこには、チームが苦境を脱したことに対する人一倍、責任感の強いキャプテンの安堵のようなものを感じた(勘違いだったらすいません……)。僕はその場で“ナイスゲーム”“最高の笑顔”に加え“キャプテン、おつかれす!”という言葉を添えてツイートすると、すぐに300個の「いいね」が付いた。どれだけの人に届いたかは分からない。ただ、糸原に限らず試合後などに見せる普段とは落差のある言葉や表現が読者に伝われば、紙面で自分たちが書く原稿にも奥行きが出るし、より感情移入して朝から記事を読み込めるのではないかと都合良く勝手に思い込んでいる。

新キャプテンの糸原健斗

 5月31日配信のコラムで、ツイッターでの紙面記事の宣伝を生産者の顔が表示された野菜販売に例えたが、選手の素顔や意外な一面をつぶやく日々のツイートはいわば“栄養成分表示”。この野菜(記事)ではこんな栄養(付加価値)が取れるのか、と。今、頻繁にツイートに登場しているのは昨年まで2年連続60試合登板を果たした6年目のリリーバー・岩崎優。「特にないですよ」「別に……」「はい……」と、マウンド上でのポーカーフェイスのイメージ通り、取材でもリップサービスはほとんどない。基本“塩対応”なのだが、ツイートではあえて塩分濃度の濃さをひたすらアピール。そんなことをしていると、17日の中日戦で10球粘られた平田良介を直球で見逃し三振に斬り、珍しく感情を露わにした。僕が記憶する限り、プロ入り3度目の雄叫びだ。“塩ツイート”を目にしてくれている人はその姿に落差や驚きを感じたかもしれないし、そんな左腕が、試合後に何を語るのか。翌日の紙面に掲載されたのは20行ほどの「雑感」だが、もしかしたら「塩」と「雄叫び」の落差を楽しんでくれた人がいたかもしれない。

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 キー太にいじられても、後輩にドッキリを仕掛けられても……。チャリンコと呼ばれ続けながら、紙と読者をつなぐ「つぶやき」を続けて、スポーツ新聞の“潮目”を変えることに挑み続けたい。

チャリコ遠藤(スポーツニッポン)

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