小学3年生で野球を始めた時「左利き」というだけでポジションは一塁、外野、投手の3択に絞られた。特に希望もなく「格好良さそう」「チームの中心になれそう」と、浅はかな理由だけで何となく「投手」を選択。結局、大成するはずもなく、球はそこそこ速いがノーコンという中途半端に荒れた投手のまま高校入学とともにマウンドに別れを告げた。そんな苦い思いがあるからか、プロ野球の担当記者になってからはついつい、左利き……いわゆる「サウスポー」を目で追ってしまう。
「エグい」と称された2人の左腕
今は高橋遥人だ。亜細亜大学から17年のドラフト2位で阪神タイガースに入団した2年目左腕で、現在はリーグ屈指の安定感を誇る先発陣の一角を担う。「エグい」――。具体性に欠ける陳腐な表現は、実は彼を評する人たちの共通語になっている。間近でブルペン投球を目にした記者はもちろん、選手、コーチといった「プロ」も例外でなく目を丸くする。
とにかく、投げ込むストレートがエグい。1年目だった昨年1月、新人合同自主トレでブルペン投球を視察した当時の金本監督がいきなりうなった。「ど真ん中でも打てないよ」。指揮官の立場というよりも、通算476本塁打を放った稀代の左打者から見た“本音”のように聞こえた。その上質なストレートと途中まで同じ道筋で変化する“軌道偽装”を駆使したカットボールやツーシームの変化球も強力。先発した6月20日の楽天戦を視察に訪れた侍ジャパンの稲葉監督も「落ち着いてるし自分のボールを操れてる」とプロ通算4勝の若虎を代表候補としてリストアップしていると認めた。
そのボールを目にした者を次々と魅了していく背番号29を見ながら、僕は別のサウスポーも思い出していた。高橋よりも前に「エグい」と称された男がいた。横山雄哉は、14年のドラフト1位で入団した5年目の25歳。高橋が金本前監督を驚かせたように、1年目の2軍キャンプでボールを受けた藤井彰人(現1軍バッテリーコーチ)は「びっくりするぐらい良い球やった。久々にこんなボールを投げる左ピッチャーを見たかな」と声を弾ませた。ワインドアップの本格派(現在はノーワインドアップ)で、ムチのようにしなる腕から繰り出されるストレートの評判は、すぐにチーム内にも広まった。「新人の横山のまっすぐがエグい」らしいと。彼のストレートもまた、プロたちを驚かせたのだ。
だが、1軍で才能を開花させつつある高橋とは対照的に横山は秘めたポテンシャルをいまだ持て余したままだ。度重なる故障に苦しみ、昨年8月に左肩を手術した影響でオフには育成契約。今は「15」から随分と重くなった「115」を背負って地道なリハビリに取り組んでいいる。