「たらればを言っても仕方ない」とよく言いますよね。「もしあれが無かっ“たら”」「こうなってい“れば”」。物事を動かしたり、人の行動を促すのはいつだって結果(事実)です。だから「たられば」は不毛。負け惜しみや言い訳にしか聞こえないから意味がない。そう思って生きてきました。でも先日、付きっきりで取材している阪神タイガースのある試合の結末を見て、その考えを見直しました。

矢野阪神の積極的な姿勢が生んだ「ミス」について

  6月5日のロッテ戦。4−5と1点ビハインドで迎えた9回1死三塁のチャンスで起きた出来事です。三塁走者が還れば同点という場面で高山が放った左翼前へのライナーを清田がスライディングキャッチ。見ている誰もが「ああ、ツーアウトか……」と思った時、三塁走者の植田が本塁手前まで飛び出していたのです。清田は三塁へ送球。併殺というまさかの形で試合は終わりました。

 思いもしない結末にレフトスタンドから大きなため息と怒号が聞こえてきました。ヒットはもちろん、外野フライ、内野ゴロでも同点の可能性があったチャンス。「最低でも同点にはしてくれるだろう」。そんな希望が一瞬にして消えました。報道陣が控える部屋にも「走塁ミスで終わりか……」という重たい雰囲気が漂いました。でも、試合後の矢野監督のコメントは、想像していたモノとは違いました。

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「俺がサインを出しているのだから。別に海(植田)を責めることはない。俺がそういう指示を出しているんでね」

 作戦の全貌が明かされることはありませんが、見る限り、内野ゴロでのホームインを狙って、投球がバットに当たった瞬間にスタートする指示が出ていたようでした。会見終了後、スポニチのWEBサイト『スポニチアネックス』にて矢野監督のコメント付き速報記事を配信しました。ネット上には賛否の声が飛び交いました。矢野監督の姿勢を讃える声もあれば、「外野フライなんだから戻れたはずだ」といった意見も。珍しい終わり方だったため多くの議論を呼びました。

 たしかに100点満点のプレーではないと思います。打球は外野に飛んだのだからそこから戻れば良い。仮にアウトのタイミングでも戻る姿を見せることでミスを誘えるかもしれない。それこそ矢野阪神が徹底する野球です。でも、そんな、私が感じていることなどチームは百も承知でしょう。その上で矢野監督は「責めることはない」と言ったのです。それは、ゴロでも絶対にホームに還る! という積極的な姿勢だったからこそ生まれた「前向きな失敗」だったからだと分析しています。

「超積極的野球」を掲げる矢野燿大監督

 長々とすみません。ここでやっとタイトルにある、良い「たられば」の話をします。矢野阪神を伝える私たち、そして、矢野阪神を応援するファンの皆様が議論すべきなのは、「植田が戻っていれば……」の“れば”ではなく、「あの盗塁がなければ」の“れば”だと思うのです。