全員から三振を奪いたいから、変化球も投げる
7月11日。フレッシュオールスター。場所は楽天生命パーク宮城。梅津は前日、実家で家族と食事をした。6月上旬に母は退院しており、自宅療養中だ。
「まだ会話が文章にならないので、単語と単語で何とか話す感じです」
母にとっては名古屋へ旅立つ息子を見届けた1月以来の再会。一回り大きくなった晃大は翌日、晴れ舞台で先発する。母は必死に口を動かし、笑顔で一言だけ伝えた。
「大丈夫だから」
楽天球団は体が不自由な母を気遣い、エレベーターで移動できる個室の客席を用意。両親や親戚が見守った。
「試合前に石橋(康太)が『全部ストレートで行きますか?』と尋ねてきました。でも、『全員から三振を奪いたいから、変化球も投げる』と伝えたんです。お祭りではなく、120%の力で攻める真剣勝負のマウンドでしたから」
梅津は2イニングパーフェクト。見事、優秀選手賞に輝いた。翌日、再び実家へ。母は満面の笑みで出迎えた。
「すごいね」
やっと喜びに浸れた。
「ただ、やはり1軍で投げる姿を見せたいです。母にもそうですが、それと同じくらい父にも。兄弟と母を支え続けたのは父です。母の看病をしながら、大学に通う妹の弁当を今も毎朝作っています。父は野球が大好きな人。野球を始めたきっかけも父とのキャッチボールでした」
梅津は気を引き締めた。野球の神様はきっと好むに違いない。感謝を忘れず、攻める姿勢を貫き、常に高みを目指す若者を。次はどんな舞台を用意するのか。その日を待ちたいし、その日は近いかもしれない。
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