つい2週間ほど前、我が巨人軍はがけっぷちに追い詰められていました。それまで首位を快走していたと思ったら、いつの間にかDeNAが0.5ゲーム差、3位広島が1ゲーム差の団子状態。「これは雲行きが怪しい……」と、一瞬嫌なことを考えてしまったのは私だけではないはずです。しかし首位の座を譲ることなく、この状況から一気に脱出できた要因は何でしょう。

 自ら「状態いいね」と語ったのは、17年のホームラン王ゲレーロ選手。岡本選手も阪神戦で自己最大かと思われるような特大ホームランが飛び出すなど、好調を取り戻しています。山口投手も早期復帰してくれて助かりました。そんな中一番の救世主は、中継ぎに回った大竹寛投手だと思うのです。

 8月12日の広島戦(マツダスタジアム)では1点差の6回2死満塁でマウンドに上がって後続を断つと、打者4人を完ぺきに抑える好投で節目のプロ通算100勝目。その後もマツダでの3連戦すべてに登板するなど、連投や回またぎも苦にしない献身的な姿勢で、気づけばブルペンを引っ張ってくれています。

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中継ぎに回り、ブルペンを引っ張っている大竹寛 ©時事通信社

一進一退の野球人生の象徴

 開幕前から……いや、昨年からずっと巨人はリリーフ陣に不安を抱えていました。いざ2019年シーズンが開幕すると、上原投手がシーズン序盤でまさかの引退を発表。マシソン投手も病み上がり。新守護神として期待されていたクック投手も早々と2軍落ち……。良いニュースとしては中川投手の台頭、デラロサ投手の補強などもありますが、そんな中で、ベテランの大竹投手が柱になっている今の姿を誰が想像したでしょう。大竹投手の適性を見抜いて、中継ぎに起用した原監督の眼力にも改めて感心させられます。

「寛ちゃんはムードメーカー」「みんなの愛されキャラ」「オアシス大竹」……。原監督や宮本投手コーチなど首脳陣のコメントからも誰からも好かれる大竹投手の人柄が伝わってきます。私も取材で何度かお話を伺ったことがありますが、いつもニコニコほんわかとしていて、癒し系という言葉がぴったりな方です。キャラクターに例えるなら「カールおじさん」のような雰囲気でしょうか(笑)。でも、大竹投手にはそういった表現だけでは表しきれない芯の強さがあるように思うのです。

 カープでは長年、先発の柱として活躍してきた大竹投手ですが、ジャイアンツにきてからの道のりは決して順風満帆とは言えません。移籍初年度こそ9勝を挙げたものの、その後はケガもあって思うような活躍ができていませんでした。人的補償で代わりに巨人からカープに移籍した一岡投手が大活躍したこともあって、大竹投手を取り巻く声は必ずしも好意的なものばかりではなかったと想像します。その間にも山口投手、野上投手、森福投手ら実績のあるピッチャーが次々とFAで加入。昨年、大竹投手は1軍での登板がわずか2試合でした。推定年俸も巨人にやってきたころの四分の一。今年36歳を迎える大竹投手にもくじけそうな瞬間があったと思います。でも、そこで腐らずやってきたからこそ100勝を挙げ、リリーフの柱として活躍する今があるはずです。癒し系のキャラクターの裏に燃え上がるような闘争心が窺えます。

 昨季終了時点で97勝99敗。今季3連勝で100勝目を挙げた大竹投手は「こんなにトントンの投手いるんですかね」と話したそうです。もちろん貯金がたくさんある投手の方がいいのかもしれません。でも、勝っては負け、負けては勝ちと数多くのゲームで試合の責任を全うしてきたからこそ、この数字が残ったと言えるでしょう。3歩進んで2歩下がるではないですが、100勝99敗という誇るべき数字も大竹投手の一進一退の野球人生を象徴しているようで、とても感慨深く感じます。