子作りと仕事、そしてお金に悩む27歳既婚女子
そしてシブヤちゃんと同じく子宮頸がん検診で「前がん病変」の診断を受けたエビスさん(仮名/27歳)も、子作りと仕事、そしてお金に悩む一人だ。
23歳のときに「軽度異形成」(前がん病変としてはもっとも軽い状態)の診断を受けた。当時から付き合っていた夫にも診断結果を伝えたが、「たぶんもう気にしてないんじゃないかな」というくらい、互いに今は気にかけることなく、経過観察しながら生活をしている。
ただ、子作りに関しては「迷い続けてる」。
「まだ20代。仕事もしたいし、2人で海外も行けてないし、やりたいことがたくさんある。子どもはまだいいかなと思う反面、いつ“がん”になるかもわからないから早くしなきゃとも思うし……たぶん私、自分ではいつまでも決められないと思うんです」
しかし昨年の結婚を機に親族の借金を負うことになり、子作りもハネムーンもすべてが吹っ飛んだ。アパレル業界にいた夫も稼ぎを重視して配送業に転職、「共稼ぎでなんとか生活できるくらい」にはなったという。
そもそもだが、シブヤちゃんもエビスさんも「前がん状態」であって、“がん”ではない。それでも“がん”連載のトップバッターとして登場してもらったのは、“日常に潜むがん”という意味で、その声を紹介したいと思ったから。
“がん”は、パッと見だけではわからない
私自身がそうだったように、“がん”というと、ヨレヨレ、ヨボヨボ、ボロボロな人をイメージしがちだ。でも実際には、少し古いが“『SEX AND THE CITY』東京編”とでも形容したくなるシブヤちゃんやエビスさんのようなキラキラした女性も、“がん”と隣合わせに生きている。“がん”してる人だって、パッと見だけではまったくそれとわからない人も多い。
そして『SATC』世代が“がん”になって直面するのが、仕事、お金、子作り問題なのである。
そもそも転職に失敗し、なし崩し的にライターになった自分はずっと売れず貧乏なので、仕事とお金の悩みは尽きない。だから子どもを持つ踏ん切りもつかなかった。
そんななか試しに行った産婦人科で、子どもができにくい体であることが判明。「だったら一か八かチャレンジしてみっか」と人工授精でできたのが、2年前に生まれた息子だった。
そしてその1年後に“がん”がわかり、受精卵を凍結し、今に至る……と100文字でさっぱりと書いたが、どれもゆきつもどりつしながら、ウジウジじわじわとやったことである。
「子どもが出来るのも運命だし、病気が進むのも運命だから、どっちも天に任せようかなと」(エビスさん)
「また再発したら手術するだけ。そこに不安はないんだよね」(シブヤちゃん)
病気も子どもも、自分の体の中で起きることだけど、意思だけではどうにもならない領域がある。私もたぶん、これまでと同じように、よせてはかえす波のごとく、揺れながらなんとなく、どこかにたどり着くのかなと思っている。
子作りに焦る時期もあれば、仕事のほうが楽しいタイミングもある。そのときそのとき、自分が落ち着く方向に流れていくだけだ。
シブヤちゃんとエビスさんと話して、そんな我々世代の“がん対処法”を学んだ気がする。
写真=末永裕樹/文藝春秋
この記事は、文春オンラインとYahoo!ニュースによる共同企画記事です。9月3日から4回にわたって配信します。