いま、いちばん面白い“報道番組”は間違いなく『全力!脱力タイムズ』だ。
経済学者の岸博幸、教育学者の齋藤孝、犯罪心理学者の出口保行といった解説員が難しい顔で居並び、それをキャスターのアリタ哲平(有田哲平)が束ねる。番組では毎回コメンテーターとして2組のゲストが呼ばれる。1組は、主に俳優、もう1組が芸人だ。この日のゲストは女優の蒼井優とロンドンブーツ1号2号の田村淳だった。
この番組では俳優は「ボケ」役だ。アリタから「蒼井さんのライバルは赤井さん?」と問われれば「昔から(赤井)英和とはガチでやりあっている」と全乗っかりし、「最終的には私がアッパーで」と真面目な顔で言い放つ。それを芸人が、戸惑いながらツッコんでいく。また、解説員たちは隙あらば、「~といえば」と自分の専門分野の話に無理やりこじつけて解説を始め、一向に“本題”が始まらない。それに必死にツッコむのはゲストの芸人ただひとりだ。
途中挟まれるVTRもふざけている。日本語が怪しい滝沢カレンによる破壊的ナレーションを乗せたり、話題曲の紹介では権利の関係で“映像加工”したと言って本物の歌手ではなく、ロンブー亮と松野明美が壊滅的な音程で歌い踊る。それをひとりでツッコまなければならないからゲストの芸人は休む間がない。
いま、有田哲平ほどテレビで“自由”な芸人はいない。いわゆる純粋な“お笑い”番組が作りにくい中、『しゃべくり007』ではボケ役として振る舞い、コンビとしては『くりぃむナンチャラ』でやりたい放題、ピンでは『有田ジェネレーション』で若手芸人を発掘し、イジり尽くし、彼らの可能性を広げている。そしてこの“報道番組”のテイで遊びまくる『全力!脱力タイムズ』だ。ここではある程度評価の定まった中堅芸人たちに無茶ブリし、翻弄することで、それまで見せたことのない芸人の顔を毎回“報道”している。きっと有田は「芸人」という人種が大好きなのだろう。
本番が終わり疲労困憊になった淳が「トリックが過ぎるよ!」と感想を漏らした通り、この番組はくだらないひとつのボケのために何重にも仕掛けが張り巡らされている。徹底的に作り込んだ上で、ただひとり、何も聞かされていない芸人を放り込んだらどんな予定“不”調和が生まれるか。それが、作り込んだコントが受けない時代の新しいコントの形なのだ。