8月29日、韓国の大法院(最高裁)で収賄罪などに問われた朴槿恵前大統領(67)の上告審が行われた。朴前大統領は2審で懲役25年・罰金200億ウォンの実刑判決を受けていたが、この日の上告審ではその判決を破棄。ソウル高裁に審理を差し戻すこととなった。大法院は「2審の判決に法令違反があった」と指摘した。

 差し戻された審理はどうなるのか。朴前大統領をめぐっては、かねてから一部の熱狂的な支持者が「不当逮捕である」「釈放せよ」と主張していた。その代表格である、朴前大統領の最側近の国会議員に関する記事を再公開する。(初公開 2019年4月19日)

 文在寅(ムンジェイン)政権が大々的に演出して行われた「第100周年 大韓民国臨時政府樹立記念式」の様子は先日レポートした(韓国は“反日”をエンターテインメントにしている――現地イベント潜入ルポ)。

韓国の文在寅大統領 ©getty

 それから2日後の4月13日、韓国・ソウル駅前には大勢の人が集まっていた。彼ら(主に高齢層の男女)は一様に太極旗(韓国の国旗)を手にし、口々にこう叫んでいた。

「パク、クネ! 大、統、領!」「パク、クネ! 大、統、領!」「(文在寅政権は)殺人的な政治報復、政治的な人身監禁は即刻中断しろ!」

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 この日、行われていたのは「太極旗デモ」と呼ばれる集会だ。日本では、朴槿恵(パククネ)前大統領を退陣に追い込んだ市民たちの「ろうそくデモ」が有名だが、それが進歩派(左派)の集会であるのに対し、この「太極旗デモ」は保守派(右派)の集まりである。

 彼らが主張しているのは、職権乱用などの罪で拘束・監禁されている朴槿恵氏の「無罪釈放」だ。道行く人々に釈放を求める署名を集めたり、ピンバッジなどの“グッズ”を販売したりもしていた。また、朴槿恵氏が拘束満期を迎える4月16日~17日、この集団は彼女が収監されているソウル拘置所の前で1泊2日の“泊まり込みデモ”も敢行した。分かりやすく言えば、彼らは文在寅政権を憎む“朴槿恵ファン”なのである。

「太極旗デモ」に参加する人々 ©文藝春秋

誰よりも過激な“文在寅批判”を展開

 はためく太極旗と、支持者たちの「パク、クネ!」というシュプレヒコール。その喧噪の中に、多くのデモの参加者から写真撮影を求められているスーツ姿の人物がいた。名前は、趙源震(チョウォンジン)氏。この日の「太極旗デモ」を主催する極右政党・大韓愛国党の代表を務める国会議員である。

大韓愛国党の趙源震議員 ©文藝春秋

「大韓愛国党は政党とはいえ2017年に結成されたばかりで、国会議員は代表の趙氏1人だけ。趙氏は元々、朴槿恵前大統領のセヌリ党に所属していましたが、朴槿恵氏に“崔順実(チェスンシル)ゲート事件”が起こると、セヌリ党はイメージ刷新のために『自由韓国党』と改名。すると趙氏は離党し、大韓愛国党を結成しました。大韓愛国党は、政党としては全国組織さえない“泡沫中の泡沫”ですが、趙氏自身は演説をすれば弁が立つ上に過激な発言をするので、一般的には“イロモノ”扱いですが、最近は右派の高齢層を中心に人気が出てきつつあります。また、この趙氏は朴槿恵氏の忠実な子分で、かつては“親朴の核心”とまで呼ばれていました。彼女が弾劾された直後には『朴槿恵を愛する人たちの会』なる組織を立ち上げてもいます。一貫して『(朴槿恵は)無罪である』と主張し続けています」(在韓ジャーナリスト)

 趙議員は、日本ではあまり知られていない謎に包まれた人物だ。しかし、実は今、趙氏は誰よりも過激な文在寅批判を繰り広げ、注目を集めつつある。