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選手主導のスローガン「一生残る、一瞬のために。」 ベイスターズは優勝しか目指さない

文春野球コラム ペナントレース2019

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未来なんてしゃらくさいのだ

 その後、彼らは一軍へ帰ってきた。思えば4月の10連敗直後に一軍初昇格を果たした石川雄洋も即スタメンで決勝本塁打を放っていたが、腐らずに準備をしてきたってことだ。戸柱は、嶺井と併用ながら主戦捕手として現在の投手陣を引っ張り、一軍復帰即スタメンで起用された梶谷はいきなり本塁打を放つと、ここまで11試合で3割5分5厘3本塁打。桑原は現在再び二軍に戻ってしまったが、8月10日の延長10回に送りバントで出塁すると乙坂の犠牲フライでサヨナラのホームを踏んだあの懸命な激走は見る者の心に何かを残してくれた。そして倉本も“一生残る、一瞬のために。”のスローガンが発表されたその日に念願の一軍昇格を果たしている。こっからだ。

 総力戦となる残り1カ月。戦列を離れていた三上や伊藤光らは間もなく合流できるようだ。鮮烈なデビューを飾った伊藤裕季也ら若手だっている。今や8番ピッチャーは朝メシ前。2番サード筒香だってやってのけるラミレス監督の頭の中は、おそらく物凄いデータや相性の組み合わせや、2年前の短期決戦の鬼モードと化したあらゆるフィーリングが溢れているに違いない。

 これまで以上にシビアになる状況の中で、試合に出る選手もいれば、一軍のグラウンドに立ちたくても立てない選手もいるだろう。誰が選ばれてその場所に立っているのか、その先の未来のことは誰にもわからない。ただ、その場所に立つために、今の準備を怠っているものはいないと感じる。

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 この1年間、ベンチ裏で選手の生の姿を撮り続けていた球団スタッフはいう。

「選手たちはこの1年間、あの10連敗の時だって、諦めてしまうような人は誰一人いませんでした。ずっと本気なんですよ。映像を撮りながらいつも、そんな選手の本気の姿を少しでも知ってほしい。本当にいいチームだと思うんです」

 未来なんてしゃらくさいのだ。来年の今、誰がどこにいるのかなんてわからない。来季のベイスターズがどうなっているかなんてわからない。目の前だ。巨人までたったの2.5ゲーム。今だ、今のチームが最高なのだ。今という一瞬を全力で生きてこそ、未来はつながっていく。そして、そこに立てなかったものの思いは、勝つということでしか、納得させることができない。だから勝て。勝ってくれ。この一瞬を逃したらもう二度と戻ってこない今。今日この試合を全力で勝ってくれ。おじさんも今日から2017年のCSの時と同じ、縁起担いで毎日クジラカツを食べることにした。命がけだよ!

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