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ベイスターズ「2位」が決まったのに、どうしてモヤモヤするのだろう

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/09/27
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梶谷の奇跡みたいなダイビングキャッチと「悔しい2位」

 そう、9回まで、勝っていた。1点差を、先発と中継ぎが必死に守って。逆転優勝に、わずかなわずかな望みを繋いで。先頭バッター、岡本選手の痛烈なライナーにライトの梶谷が飛び込んだ。水泳選手が水に飛び込むように、ナイフみたいに。逸らしたら、ツーベースは確実だった。神様はまだ味方してくれている。フォアボールでランナー溜めたけど、あと一人。神様。

「最後ボールがあいつのとこに飛んで、追いつかなくて、サヨナラだった」。さらに食べ物を物色しながら長男は言う。神様って……いるのかね。あの時捕球して立ち上がり、梶谷は小さくガッツポーズをした。ケガ、手術、長いファーム生活。梶谷にとって、今年は辛いシーズンだったかもしれない。だけどやっぱりライトはカジだよ。カジしかいないよ。全世界がそう思った時に、また梶谷の前にボールが転がってきた。

「カジ、お願い!!!!!!!」絶叫しながら脳裏をよぎった。負けたら終わりの、日本シリーズ第6戦、11回裏の、梶谷のバックホームが。同じように「カジ、お願い!!!!!!!」と絶叫したあの時、ホームの手前で大きくバウンドしてボールは消えた。今度は、今度こそ、カジにご加護を。神様。

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 守護神が打たれた後のハマスタは、しんと静まり返っていた。青いジェット風船で満たされるはずの空に、間の悪い一つ二つが所在無さげに漂っていた。「俺はでも、県大会まで行けたのはすごい自信になったし、野球って面白いなって、高校行ってもやっぱやろうかなって思った」。そして「あーでもやっぱ、思い出すと悔しいな」とニヤニヤ笑う長男。もう食うな。

 私は……忘れようとした。あの日見たカジのダイビングキャッチが、あまりにもすごくて、それが勝ちへと繋がらなかったことへの怒りと絶望に、私は耐えられなかった。あの日のバックホームのリベンジをさせてくれない神様を恨んだ。その気持ちが、「2位」から目をそらさせていた。2位はすごい。そして悔しい2位はもっとすごい。悔しい2位の中に、カジのあの奇跡みたいなプレイはずっと残る。チャンスはまだある。もっともっとすごいステージでやり返せって、言ってるのかもしれない、神様は。

梶谷隆幸のダイビングキャッチ ©共同通信社

 ベイスターズはもう、何も知らない挑戦者ではない。どん底からここまで這い上がって、求めてるのは「奇跡」なんかじゃない。優勝争いをする力が、ベイスターズにはあるのだから。そのことに、今やっと気づいて、私はみんなより周回遅れで、めちゃめちゃ喜んでます。

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