勝負の9月に入り、ベイスターズは首位巨人に一時2.5ゲーム差まで迫り、優勝マジックを消滅させる怒涛の勢いを見せた。しかし、4連敗からの直接対決に敗れ、マジックの再点灯を許してしまう。点灯したマジックは「9」。残り試合を考えれば、ここからの逆転優勝は奇跡である。9月17日現在、首位巨人のマジックは「4」。ベイスターズが残り試合を全勝しても、巨人が残り9試合のうち4勝すれば、優勝である。悲願の優勝は、もはや風前の灯。火は消えかかっている。しかし、消えてはいない。この状況で、ベイスターズは残りの試合をどのようにして戦うのか。

9月10日の巨人戦、岡本和真に逆転2ランを浴びた今永昇太

夢や目標に手が届きそうになると、なぜ「壁」が現れるのか

 夢や目標に手が届きそうになり、直前で逆向きのエネルギーが働くことは、実は珍しくない。打率が3割に届きそうになると急に打てなくなり、2割8分ほどまで下がるとまた打ち始めるプロ野球選手や、優勝候補を終盤まで追い詰めておきながら、大逆転を許し負けてしまうという高校野球の試合を何度も見たことがある。

 これは、野球に限ったことではない。志望校を目指す受験生にも、営業成績で1位を目指すビジネスマンにも、同じような経験をした人は多くいるはずだ。あと一歩で手に入るのに、なぜかそこで力が弱まってしまう。まるでそこに壁があるかのように。それらを総称し、「〇〇の壁」という言葉があらゆる領域で見られる。実際にそこに物理的な壁など存在しない。あくまで、その境界を越えようとする者に現れる、精神的な何かだ。そういう観点で見ると、9月6日からの中日戦3連敗は、まさに壁に跳ね返されたような気さえする。なぜ、この壁は現れるのか。

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 中学生時代、私は例に漏れず漫画スラムダンクにハマった。そのストーリーの中で、全国大会に進んだ湘北高校が、2回戦で絶対王者・山王工業高校との対戦に挑む。その試合前、監督である安西は、自分たちが以前敗れた海南高校と山王工業の試合のビデオをメンバーに見せる。海南高校との点差を引き離す、山王工業のあまりの力の差に言葉を失う湘北高校のメンバー。実力の差だけではなく、前年に全国制覇を成し遂げたメンバーが3人も残っており、経験の差でも大きなアドバンテージがあることを告げられる。さらに安西は、仮に湘北高校がもう少しで勝てそうだという状況になっても、観客は心の底では王者・山王が破れることは望まない、とも告げている。そんな中で絶対王者・山王工業に勝つための意志を、次の言葉に集約させている。

「全国制覇を成し遂げたいのなら、もはや何が起きようと揺らぐことのない――断固たる決意が必要なんだ」

 湘北高校対山王工業の試合は、序盤で20点の差をつけられた時点で、選手たちはもとより、観客を含めた会場の雰囲気全てが「やはり、勝つのは王者・山王工業」という空気になっていく。そんな中で、主人公である桜木花道が「断固たる決意」をプレーと言葉で体現していく。その意志は徐々にチーム内に浸透していき、ついには会場をも巻き込んでく。試合は最後のワンプレーで桜木花道のシュートが決まり、逆転勝ちを果たす。漫画の中の話ではあるが、ここから学ぶことはたくさんある。