明治維新の元勲のひとり西郷隆盛は、1873(明治6)年に征韓論をめぐる政争に敗れて下野してから3年あまり、故郷の鹿児島で自適の生活を送っていた。しかし140年前のきょう、1877年2月15日、前日に鹿児島士族1万3000人が武装して進発を始めたのに西郷も同調し、出陣する。ここに日本史上最後の内戦となる西南戦争の火ぶたは切られた。

いろいろな西郷どん ©文藝春秋

 西郷の下野後、鹿児島では不平士族の一派が実権を握り、明治政府と対立を深めていた。警戒した政府は密偵を派遣、さらに77年1月には鹿児島陸軍弾薬庫から火薬をひそかに搬出する。これに対し士族の怒りが爆発。その勢いは、これまで自重をうながしてきた西郷にも抑えきれず、やむなく決起にいたったのである。このとき鹿児島はまれに見る大雪に見舞われ、進路は難渋し、政府軍の籠った熊本城外の川尻周辺に西郷軍が集結したのは2月21日となる(小川原正道『西南戦争』中公新書)。

高橋克実も吉川晃司も…… 西郷を演じた俳優たち

 西郷隆盛といえば、来年のNHK大河ドラマは、林真理子原作・中園ミホ脚本による『西郷(せご)どん』に決まっており、鈴木亮平が主演する予定だ。大河ドラマの幕末物では当然ながら西郷は外せない存在で、これまでにも多くの俳優が演じてきた。たとえば『勝海舟』(1974年)と『獅子の時代』(1980年)では歌舞伎役者の中村富十郎(五代目)が西郷をあいついで演じたが、いま40歳の筆者には何といっても『翔ぶが如く』(1990年)の西田敏行の印象が強い。

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新しい西郷像に挑む鈴木亮平、西郷さんといえば西田敏行 ©山元茂樹(左)/榎本麻美(右)/文藝春秋

 西郷を演じるにあたって西田は、巷間伝えられる有名な肖像画にあえて似せようと努力したという。ダブル主演となった大久保利通役の鹿賀丈史が、写真の大久保とよく似ていただけに、自分もみんなの知る西郷に似せないと納得してもらえないと思ったからだ。カツラをつくるときも、あの肖像に近い坊主頭にするため、何度も西田の頭に当ててつくり直し、近づけていったとか(西田敏行『役者人生、泣き笑い』河出書房新社)。結果、西田演じる西郷は、映像作品における西郷隆盛像のひとつのスタンダードになったように思う。

 そもそも西郷の実像はあの肖像画とは違ったともいわれる。その後の大河での西郷役を振り返ると、渡辺徹(『徳川慶喜』1998年)、宇梶剛士(『新選組!』2004年)、小澤征悦(『篤姫』2008年)、高橋克実(『龍馬伝』2010年)、吉川晃司(『八重の桜』2013年)、宅間孝行(『花燃ゆ』2015年)と、多彩な顔ぶれが並ぶが、そこには従来のイメージから離れ、作品ごとに新たな西郷像を描き出そうというつくり手の意欲がうかがえる。

 さて、鈴木亮平といえば、徹底的に役をつくって演じた映画『俺物語!!』の主人公が、どこか従来の西郷像を彷彿させた。『西郷どん』の西郷はそのイメージとはまた違うものとなるのか。