「ユニクロ潜入1年」(昨年12月8日号)で始まったジャーナリスト・横田増生のユニクロ潜入ルポも、今週号(2月16日号)の「ユニクロ潜入 10『柳井さん、従業員の悲鳴が聞こえますか?』」で連載は終了する。

はじまりは昨年12月8日号の「週刊文春」だった

 横田増生はかつて『ユニクロ帝国の光と影』(文春文庫)を出版、それに対しユニクロは名誉毀損の訴訟を起こす(文春の勝訴)。そのおり、「悪口を言っているひとはどういう会社か試しに働いてみてちょ」(大意)とユニクロ会長が言うもんで、お言葉に甘えて働いたろかと横田さん、法律に則り名字を変え、バイトの面接に出向いて見事採用GET、正々堂々と入り込んだのである。

 この連載は毎回毎回、「本誌では、ファーストリテイリングに対し、本連載に対する反論や見解を求めましたが、『お答えすることはありません』(広報部)との回答でした」との編集部注で終わる。文春は毎週毎週、ユニクロ広報に問い合わせては「お答えすることはありません」と冷たい言葉をあびせられているのである。……この広報さんは女性だろうか? 素っ気ない口調から、ひっつめ髪のクールなバリキャリの女性を想像してしまう。

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 私ならば、そのツンデレっぷりに恋してしまいそうだ。こころみに映画に誘っては「お答えすることはありません」、ぶっちゃけユニクロとZARAどっちが好き?と聞いては「お答えすることはありません」、そんな甘い妄想で頭がいっぱいになってくる。

「お答えすることはありません」

潜入ルポの名作『ヤクザと原発』『麻原彰晃を信じる人々』

 ところで潜入ルポというと、近年では鈴木智彦『ヤクザと原発』(文春文庫)が白眉。事故後の福島第一原発に作業員として入り込んだヤクザライターによるルポである。

 鈴木智彦は原発潜入ルポを週刊誌に先行して出しているのだが、週刊ポストの見出しがふるっているので紹介したい。「フクシマ50は月給100万円を握りしめて『湘南乃風』を熱唱した」「頭頂部を被曝したがハゲるのだろうか?」「精子を採りに行かなくちゃ」「作業員は小名浜ソープで二度汗を流す」。声に出して読みたい見出しばかりである。

どちらも文春文庫です         

 ヤバいところへの潜入ものでは、大泉実成『麻原彰晃を信じる人びと』(洋泉社 ・1996年)ってのもある。大泉はオウム真理教で実際に修行し、光に包まれるなどの体験をする。立花隆は「やはり、こういう神秘体験をいろいろしたら、オウムにのめりこんでしまうだろうと思う。しかし大泉はオウムにのめりこまず、神秘体験を医学的に解明するなど、冷静な視点を失わない」と週刊文春「私の読書日記」で評価している。(『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』文春文庫収録)

身元バレせず1年間、すごいぞ横田さん

 またカルトといえば、今週号の、いしかわじゅんの漫画批評「漫画の時間」と穂村弘のリレー書評「私の読書日記」のふたつで、高田かや『カルト村で生まれました。』の続編『さよなら、カルト村。』(文藝春秋)が取り上げられている。こちらは親の都合で図らずも潜入してしまった著者の、「生まれた時からアルデンテ」ならぬ「生まれた時からカルト村」の体験を漫画にしたものである。

 ところで、潜入ルポで気をつけないといけないのは身元バレである。私なんぞ異性にモテたいあまり、「じつは俺、ジャーナリストでさぁ」などと飲み会などで自分から喋り出してしまい、ひと月を待たずして身元バレ、放り出されてしまうタイプの人間だ。

 しかし横田さんは違う。週刊文春での連載開始までの1年間、バレることなくユニクロで働き続けたのである。それどころか、旗艦店の「ビックロ」にも勤めるほどだったのだ。

 すごいぞ横田さん。

 なお前述の『ヤクザと原発』に身元バレにまつわる、なかなかいいくだりがあるので紹介したい。

「あんた、『実話時代』の人じゃないの?」
「昔の話ですよ」
「俺、昔グラビア載ったんだよ。親分の後ろにちいちゃく、だけど」
(『ヤクザと原発』第五章より)

 鈴木智彦はヤクザ雑誌の元編集者。その当時、取材した組織にいた者と原発作業の現場での再会であった。

ユニクロ帝国の光と影 (文春文庫)

横田 増生(著)

文藝春秋
2013年12月4日 発売

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ヤクザと原発 福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦(著)

文藝春秋
2014年6月10日 発売

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さよなら、カルト村。 思春期から村を出るまで

高田 かや(著)

文藝春秋
2017年1月30日 発売

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