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 初めは「何も知らないくせに。どうせ無駄なんだから、放っておいてくれ」と否定的な態度を取っていた私は、今思えば「井の中の蛙」で、狭い世界に閉じ込められていたのです。このような状況下では、過酷な環境から自力で脱出するのは困難であり、第三者からの「外的刺激」がなければ二度と抜け出せないケースもあるでしょうから、私はとても幸運だったと思います。

信頼できる第三者の介入が不可欠

 一方で、母はまだ、兄との縁を断ち切れず、苦しい日々を過ごしています。私も、顔も名前も知らない誰かから「母親を置いて逃げたお前も同罪だ」と批判を受けることが多くあります。

 私は実家にいる頃から、母に何度も「一緒に逃げよう」と提案をし、必死に説得してきました。しかし母はいつも「私が産んだ子だから、私が責任を取らないといけないし、逃げられない」と泣くばかりで、説得に応じることはありませんでした。

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 母はまだ、井の中の蛙です。外の世界にどれほどの可能性があるのかを、まだ知りません。私は今、母が誰にも知られず避難できる場所を確保したり、兄への金銭の支払いを肩代わりしたりしながら、母への説得を続けています。もちろん、ただただ金を毟られるつもりは毛頭ありません。次の一手を打つための準備は進めています。

 母の置かれている環境が異常であることに気が付いて危機感を抱いているのは、今、この世界に私だけでしょう。ですから、今度は私が「第三者」になって、当事者である母が「逃げよう」と決心できるまで、何年かけてでも、外的刺激を与え続けなければならないと思っています。

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 私がこの文章を書いたのは、読んだ人にとっての「身近な誰か」が「逃げないのではなく、逃げられないのかもしれない」ことに気が付いてほしい、という思いからです。1人でも多くの人が「心身が健康でない人の思考パターン」を理解し、脱出を手助けすることができれば、「逃げられなかった人」の未来は変わるのではないか、と考えています。