信頼関係が売り場を作る
限られた売り場だから、品揃えで勝負することはできない。メジャーな作品、たとえば今であれば宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』を大量陳列すれば、それなりには売れるだろうが、大きな数は期待できない。むしろ、フェアやイベント、フリーペーパーやSNSでつながった中で、一緒に仕掛けていく関係を大切にしたいと、山本さん。たとえば、2階奥のエッセイ棚で展開している春日太一さんについては、POPや棚での展開だけではなく、イベントやフリーペーパーを通じて継続的に応援している。
2階の売り場発信のイベントやフェアについては、著者に直接お声掛けすることも多い。入場料を取るわけではないイベントで、出演料を多くお支払いすることもできないし、小さな売り場なので、インパクトのある数を売ることも難しいけれど、場や、対談相手、売り場での展開などで、著者に「お役に立ちます」と、心意気を感じてもらうことを考えている。新刊の発売や旧作の文庫化といったタイミングで、小さな売り場にもかかわらず思い切った数を仕入れ、正面に多面展開する、これはもちろん著者にとってもうれしいし、ファンも楽しみにして来店する。椰月美智子さんの『伶也と』(文藝春秋)発売記念トークイベント(11月15日)も、そうした信頼関係のたまもの、椰月さんに直接お願いして実現したものという。
取材時、2階入り口正面の棚では、『二十五の瞳』、『誰かが足りない』を大展開していた。宮下奈都さんの『誰かが足りない』(双葉文庫)は、サイン入りしおり同梱。このアイディアは、以前「週末の旅は本屋さん」でも紹介した山下書店南行徳店の高橋さんのイラスト入りサインシートが元になっているという。樋口毅宏さんの『二十五の瞳』(文春文庫)は、ひとつひとつ違うサイン入り。手間をかけ、知恵を絞った売り場に対しては、著者も手間を惜しまず応え、その思いは読者にも通じるのではないか。
【本の話WEB 読者にオススメ】
山本亮さんのオススメ本は、フェア棚でも展開されていた春日太一さんの『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)。普段は冷静な理知的な筆致の春日太一さんが、理論的に筆を尽くして、しかも熱く、愛する時代劇への思いを語った本。
理性的で、しかも熱い心意気の書店員、山本さんの作る売り場で出会う本、そしてフリーペーパーをいつも楽しみにしている。
また『大盛堂書店2F通信』もらいに行きますね。
大盛堂書店
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