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ショートスターター方式で綴る、ファイターズ・上沢直之への思い

文春野球コラム 日本シリーズ2019

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ソトには上沢の分まで大仕事をしてほしい

 ご存知の通り、ネフタリ・ソト選手は43本、108打点でセの2冠王に輝いた。ちなみに2年連続のホームラン王だ。ベイスターズの攻撃的2番として、このCSでも大いに張り切っている。ちょっと感傷的に過ぎる気がして編集者には黙っていたが、僕はソトのホームランが見たかった。上沢がケガをしてシーズンを棒に振ったハマスタで、ソトには上沢の分まで大仕事をしてほしい。

 で、ハマスタに着いたら想像してたのとは状況がぜんぜん違った。僕は雨ガッパや鞄を入れるビニール袋を持参したのだが、編集者は「それは大丈夫。屋根があるところだから」と言うのだ。入り口が通常のゲートではなかった。スタースイート。びっくりした。集英社はDeNAからVIPルームに招待されていたのだ。内野席のいちばん上、城でいえば天守閣の位置にスタースイートは存在した。ガラス張りの部屋から一歩出るとテラス席だ。眼下の歓声がダイレクトに聴こえる。屋根があって雨は全く気にならない。うわ、何かIT長者にでもなった気分だなぁ。

 そのうちに阪神とDeNA、両軍のユニホームを着た集英社の皆さんがどやどや到着して、面識のある人もない人もいたが、とにかく呉越同舟でVIPルームは盛り上がったのだ。僕は端っこの席で、まさか「上沢にケガさせたことをオレは恨んでないから、上沢にケガさせた分も、ソトかっ飛ばせ~」とも言えず、あいまいに笑いながらCSの熱戦を見つめた。そんな「上沢にケガさせたことを恨んでないから……」的な情念むあむあの言い草、IT長者が口にするわけなかろう。いや、IT長者じゃないけど。ていうかIT長者がどんな言い草か知らないけど。

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 その試合、ベイスターズは打線が湿ってしまい、チーム全体でたった4安打に終わる(北條のエラーによる1点のみ)のだが、そのうち2安打はソト選手だった。僕がIT長者の体面を気にして、心のなかで「上沢にケガをさせたことは恨んでないから……、上沢の分……、打てソト!」と応援し続けたのがよかったに違いない。何度かトイレに立ったのだが、ソトの打席の回が終わったときばかりだったことに集英社が果たして気づいたかどうか。

 ソトは4打数2安打、最終回に登場した山崎康晃は無失点、僕としては上沢にもひちょりにも顔が立ち、IT長者の体面も保つことができたCS応援(?)だったが、肝心のベイスターズが敗れてしまった。スコアは1対2。ハマスタが泣いていた。もうこの先へ進めないんだよ。ひとつの夢が成就し、ひとつの夢が壊れたんだ。僕は立ち見もスタースイートも経験したけど、2019年のハマスタは何となく悲しい思い出だ。どうか来年は完全復活の上沢がソトと勝負できますように。それもなるべくだったら日本シリーズでありますように。

(※ライター、えのきどいちろうに代わりまして、青空百景)

ひいき目を差っ引いても最高の男だろう ©文藝春秋

少しずつ、しかし着実に、明るい色合いを増している

 10月22日、火曜日の夜。日本シリーズ第3戦をテレビで観ながら、ツイッターで野球ファンの声を読んだり自分も書き込んだりしておりました。自宅のテレビ観戦でも、こういうことをしていると球場でわいわい盛り上がってるような楽しさがあります。

 という最中に、目にとまった1つのツイート。

《真面目に喋ってるのおもしろい笑
 解説意外とうまいし笑》

 上沢直之のつぶやきです。誰のことかというのが一切触れられてないのですが、これを見たファイターズファンの全員が一瞬で判って笑い出したことでしょう。そう、この日の日本テレビ系(北海道ではSTVですね)中継は、副音声のゲスト解説に西川遥輝が呼ばれていたのです。試合を観るのと副音声を聴くのとどっちが主目的かよく判らないような観戦態度になっていたのでありますが、上沢直之も同じようなことをやっていたのでした。

 そこへ平沼翔太がリプライをよこしてきて、2人でああだこうだと言いたい放題。曰く、西川さんの日本語がおかしい、緊張してたんじゃね?と。ほんとにもう君達ったら先輩相手に遠慮がないねえと呆れるやら微笑ましいやら……そして、何となくほっとしたのです。

 上沢直之が、野球の試合を観て笑ってる。

 彼の笑顔が思い浮かぶようなニュースは、この少し前にもありました。17日のドラフト会議でファイターズが育成2位で指名した樋口龍之介は自主トレ仲間「TEAM徳之島」のメンバー。マリーンズが4位で指名した横山陸人は専大松戸高の後輩にあたります。

《〝専大松戸勢力〟は徐々に広がりつつあるが「現役だと僕が一番先輩なので、何も気にしなくていいんですよ」とニヤリ。》(道新スポーツ10月21日付「ハム番24:00」)

 全治5か月と発表された6月のあの日から、既に4か月が経ちました。折々報じられる近況が、少しずつ、しかし着実に、明るい色合いを増しているのを感じます。

 もうじき。もうじきです。

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