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「おいしい料理をおいしそうに描くには?」食い倒れ漫画を描いて判った難しさ

『うまうまニッポン! 食いだおれ二人旅』高田かやインタビュー#3

note

仕事として描く絵は楽しさより苦しさの方が…

――今回の作品を描くにあたって、ふさおさんの記憶に頼った部分もありましたか?

高田 もともと「食いだおれ旅」はふさおさんの趣味でしたし、ふさおさんにもチェックをしてもらって、「この時間設定は無理がないか」など気付いたところを教えてもらいました。メモをとってきっちり記録しているつもりでも、結構抜けがあって、指摘されて調べ直して間違っていたと分かったところもありましたね。

 食べ物の絵を塗る際も「ここの色はもっと濃かった」などとアドバイスしてくれました。ふさおさんは全く絵が描けない人なので、今まで絵に関しては一切アドバイスをくれることはなく、私も聞こうともしなかったのですが、今回は自分の趣味の話だからか積極的に指摘してくれて、それがとても的確で驚きました。

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 色の判別に関しては「ふさおさんより自分の方が優れている!」といううぬぼれがありましたが、旅や食べ物に情熱を全振りしているふさおさんのほうがじっくり色を見ているんだなと内省し敬服しました。これまでは、私の仕事が忙しくなるとふさおさんが家事を代行してくれて助けてくれることが多かったのですが、今回は作品作りの面でもかなりサポートしてもらったと思います。

©高田かや

――絵を見るだけでも楽しくて、「行ってみたい」「食べてみたい」と思いながら読みました。描くのは大変だったですか?

高田 はい、とにかく時間がかかってしまい、1コマに2時間3時間かかるのもザラでした。「きっと私以外の漫画家さんはもっと早くスラスラ再現できるんだろうな」と思って落ち込んだり、描いたあと時間をおいて見直したら歪みに気付いて全部描き直したり。目の使いすぎで夜になると瞼が腫れて、白目も赤く充血してしまい、毎日いっぱいいっぱいでした。

――苦労の甲斐あって、出てくる料理も全部おいしそうでした。食べ物を描くのは楽しいですか?

高田 実際おいしい料理ばかりなので、おいしそうに描けているのなら嬉しいです。 食べ物は「色」によっておいしそうと認識することが多いと思うので、モノクロの漫画で表現するのにとても悩みます。読者の方の脳内補正が入りやすいよう、できるだけシンプルに描くようにしていますが、いつでも「この描き方でいいのかな?」と手探りで不安だらけです。食べ物に限らず、仕事として描く絵は自分の表現力や画力の未熟さに苛(さいな)まれるので、楽しさより苦しさの方が強いです。

――食べ物だけに限らず、絵がグングンうまくなっていると感じます。ご自身はどう思われていますか?

高田 ありがとうございます! でも、まったく実感がないです。ふさおさんも「今回の作品は見やすくなった」と言っていましたが、写真を見て描いているからかな……?

 絵も文字も毎回描いているうちに「人の顔ってどうやって描くんだっけ? 手と足ってどうついてるっけ? ひらがなって何?」と分からなくなってしまって、描くのにとても時間がかかります。どこかが変なのは分かるのに、どう変えたら良くなるのかが分からないという……。

 原稿を見返すたびに何度も描き直したにもかかわらず、印刷されてから「あっここはこうすればよかったのか」と気付くことも多く、これまで独学でやってきましたが、「絵の基礎をひと通り習っていたら自分を支えてくれる下地になったのではないか」と感じます。どこかできちんと絵を習ってみたいですね。

 でも、久しぶりに絵を描いた1作目ではなく、絵を描き続けた4作目の現段階で一番描きたかったジャンルの話が描けたので、きっと1作目に旅の話を描いた場合よりもよいものができたんじゃないかなと思います。

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うまうまニッポン!  食いだおれ二人旅

高田 かや

文藝春秋

2019年10月10日 発売

「おいしい料理をおいしそうに描くには?」食い倒れ漫画を描いて判った難しさ

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