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かつて家族団らんのこたつの中で子熊が寝ていた
今でこそ少なくなったが「子熊を育てる」ということは、大野の猟師の間ではそれほど珍しい話ではなかったそうだ。普段狩猟を教わっている猟師の男性の生家では、家族団らんのこたつの中で子熊が寝ていた。人間の赤ん坊のようにおしりを拭いてあげたり、哺乳瓶で粉ミルクを飲ませてあげたりして育てたのだという。
「おもゆ」で育てるのがよいという猟師もいたが、一番驚いたのは嘘か真か「祖母が母乳をやっていたと聞いた」という話であった。そのエピソードを聞かせてくれた猟師は、続けて言う。「あの熊、赤ちゃんの時に、ペットボトルにお湯を入れた湯たんぽを抱えていて腹に低温やけどしたんやの。その時、熊の油塗って治したんやと」。このエピソードは何人かから聞くテッパンエピソードだが、その話をしながら皆うれしそうに笑う。熊の油は、さまざまな使い方があるが、特に火傷に効くと言い伝えられており、今でも猟師たちが常備している高級品のひとつである。
猟師は熊の個性をこう語る。
「(熊と遭遇する危険に関しては)『熊鈴を付けていればいい』とか、いろんな対策が語られるけれど、熊にも個性があるってことを知っていないといけない。だって、飼われている熊がそうでしょう。『人間は餌をくれるなかま』だと思っている。野生を生きる熊は違う。環境や経験によって、まったく別の個体がいるんだから」