「週刊文春デジタル」編集部
source : 週刊文春デジタル
genre : エンタメ, スポーツ
急転直下、札幌で開催することになった東京五輪のマラソンと競歩。議論のプロセスも見えないままの突然の発表に、東京都をはじめ関係団体だけでなく、2020年の五輪を待ちわびていた誰もが戸惑ったに違いない。この決断を強行した国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長とは何者なのか、さらにその決断の裏にはなにがあるのか。スポーツ評論家の玉木正之氏に聞いた。
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東京五輪のマラソンと競歩の開催地を東京から札幌に変更したことについて、個人的には「何をいまさら言っているのか」と強く憤りを感じます。すでにチケットも売り始め、開催まで1年を切ったこのタイミングでの決断はあまりにも無責任です。そもそも東京での五輪開催をIOCは認めていた以上、責任がIOCにあるのは自明のことです。
また、今回の合意について、森喜朗元首相率いる大会組織委員会とIOCとの間では話し合いが持たれていたようですが、東京都との間では連絡が上手くいっていなかった。小池百合子都知事が怒るのも、もっともだと思います。
かわりに札幌開催というのも非常に政治的な判断だと感じます。札幌は冬季五輪を招致しているので「文句も言えまい」と考えたのではないか。IOCなら、そこまで考えていてもおかしくありません。
今回の決断を下したIOCのバッハ会長はドイツ生まれの65歳。元フェンシング選手で、1976年のモントリオール五輪に西ドイツ代表として出場し、フルーレ団体で金メダルを獲得しています。1991年にIOC委員に就任して、副会長を3期務めた後、2013年にジャック・ロゲの後継として会長に選出されました。
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ただ、バッハ会長自身がオリンピックに出場した選手であるがゆえに、アスリートの立場がわかって開催地を変更した、という話ではありません。今回の異例の決断をバッハ会長自身のキャラクターと結びつけるのは間違っています。「調和と多様性」をモットーにして、2032年の南北共催のオリンピックを目指す文在寅大統領と会談をするなど、彼はこれまでも対話を重視する姿勢をとっており、特段“強権的”な人ではありません。
ノンフィクション作家