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 そもそも、このバッハ氏をIOC会長に推薦したのは日本なんです。レスリングがオリンピック種目から外される可能性が出てきたとき、東京での五輪招致をしていた日本は“お家芸”を守るため、「レスリング残留」に前向きだったバッハ氏をIOCの会長に推薦しました。当時「レスリングの五輪競技残留」「東京五輪の招致運動」、そして、「バッハ氏の会長推挙」は、一体となって進められていたのです。

 バッハ会長と同じフェンシングでのオリンピアン、日本の太田雄貴氏と対談を行ったこともありますし、日本との関係の浅くない人物です。これまでの関係も悪くなければ、バッハ会長自身は東京に対して悪い気持ちはないでしょう。

マラソンと競歩の札幌開催が確実となり、取材に応じる東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長 ©共同通信社

バッハ会長が取った“実利”とは

 この異例の決断を理解するため、押さえておきたいのはオリンピックを主催するのはあくまで「IOC」であり、「東京都」でも「日本オリンピック委員会(JOC)」でもないということです。東京都はあくまで場所を提供して協力するだけ。すべての判断は、東京五輪の準備状況を監督するIOC調整委員会のジョン・コーツ委員長を経由して、IOCの許可がないとできません。日本の組織委員会の最大の仕事はIOCとの協議と言われるくらいです。

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 これまでもJOCと東京都が、IOCと繰り返し暑さ対策を話し合ってきました。ですから、IOCも問題は認識していた。ところが、この9月末~10月初めに“事件”が起きた。カタール・ドーハで行われた国際陸上競技連盟主催の世界選手権で、暑さを考慮して午後11時半~12時にマラソンと競歩のスタート時間を設定したにもかかわらず、女子マラソンでは出場選手の4割以上が途中棄権してしまったのです。

 こうなるとオリンピックの主催者であるIOCバッハ会長も動かざるを得ない。なぜなら五輪のスポンサーたちがドーハでの暑さ対策の失敗が東京でも起きるのではと心配しかねないからです。札幌開催というのは、バッハ会長がいわば“実利”を取ったということです。