私は『潜入ルポamazon帝国』で、アマゾンの小田原物流センターが2013年の立ち上げから4年間で、作業中に亡くなったアルバイトが5人いると書いた。そのうち2人は遺族にたどり着き経緯を知ることができたが、残りの3人についての詳細は分からずじまいだった。
すると、私の書いた死亡事故の記事を読んだアマゾンの下請け会社であるワールドインテックの元社員が、「残り3人のうちの1人のアルバイトの死亡に立ち会ったことについて話したい」と名乗り出てきた。
再三言われる「エスカレの徹底」
夜勤で働く40代後半の体格のいい男性アルバイトが倒れたのは、2016年6月のことだった。小田原物流センターの夜勤の勤務時間は、原則として午後9時から午前6時まで。午前零時から45分までの休憩が終わり、作業が再開した直後に事件は起こった。
「男性がストー(商品の棚入れ作業)中に4階で倒れたのは、1時15分前後だったと記憶しています」
そう話すのは、神山次郎(仮名=47歳)だ。
神山に話を聞いたのは、名古屋近辺の主要駅の混み合ったファミリーレストランだった。
ワールドインテックの正社員として働いていた神山が、アマゾンの国内最大規模の小田原物流センター(約20万平方メートル)に異動してきたのは、センター立ち上げから半年後の2014年のことだった。西日本にある別のアマゾンの物流センターで、リーダーとして仕事を始め、スーパーバイザーに昇進した後で、小田原の物流センターに移ってきた。
アマゾンの物流センターには、時給が一番低いアルバイトからはじまって、リーダー、スーパーバイザーがおり、その上にアマゾン社員がいる。アルバイトはハンディー端末を持って、秒刻みで一挙手一投足を監視されながら作業を行い、リーダーやスーパーバイザーはそのアルバイトを管理する。
男性アルバイトが倒れたことに気づいた同僚のアルバイトが、リーダーに報告し、それがスーパーバイザーである神山に回ってきた。さらに神山はアマゾンの社員に報告した。
アマゾンの物流センターでは、「エスカレ(エスカレーションの略で、上役へ上役へと報告することを意味する)を徹底するように」と何度も言われる。
アルバイトが作業中に倒れた場合も、このエスカレが厳格に行われ、アマゾン社員に情報が伝達される。
通常10分程度で到着するはずの救急車が…
神山が現場に到着するのは男性が倒れて10分後のこと。すでに倒れた男性に意識はなく、呼吸もしていないように思われた。同じころに到着したアマゾンの社員が携帯電話で救急車を呼び、AED(自動体外式除細動器)で、応急措置を施した。だが、男性の反応はほとんどなかった。
通常10分程度で到着するはずの救急車がなかなかやってこないことに、神山は気を揉んだ。
「倒れた男性は、週に何度か作業現場で見かけるだけで、名前は知りませんでした。いつも黒のTシャツと黒のスラックスをはいていました。寡黙な人でしたから、あまり会話をした記憶もありません。でも、自分の職場で作業中に倒れた男性をどうにかして助けたい、と思いながら救急車が一刻も早く到着することを待っていました」と神山は話す。