15分か20分は早く現場にたどり着けたはず
ようやく救急隊員がストレッチャーを持って現場に到着したのは、1時50分頃だった。
救急隊員の到着が遅れた理由は、1階の入り口から4階の事故現場まで到着する道順が分かりづらく、センター内で何度も迷ったからだった。入り口の警備員が救急隊員を誘導した際の案内が悪く、到着に時間がかかった。
小田原の物流センターの約20万平方メートルという広さは、東京ドームの4個分に当たる。センターの中は、商品の詰まった棚が所狭しと並べてあるので、迷路のようになっている。
初めて足を踏み入れる人にとっては、目的地がはっきりと分かっていても、そこに迅速にたどり着くのは容易ではない。救急隊を案内した警備員は通常、作業現場に入ってくることはほとんどないので、センター内のレイアウトに疎いという事情もあった。
倒れた男性を載せた救急搬送用のストレッチャーは、大きな荷物の上げ下げに使う専用のエレベーターを使って、1階まで下ろされた。
神山が、男性と一緒に救急車に乗って、小田原市立病院まで行く間、救急隊員に、強い口調でこう言われた。
「アマゾンの倉庫が広いのは分かるんですが、最短で事故現場に着けるルートの情報を共有してもらわないと困ります。ルートがちゃんと分かっていたら、あと、15分か20分は早く現場にたどり着けたはずです」
それを聞いた神山は惨憺たる思いになった。
「ちょっと厳しいかもしれないねぇ」
「アマゾンに対して腹立たしい気持ちになりました。人が職場で倒れているのに、どうしてもっとまともな対応ができないんだろう、と」
神山は、男性の意識が回復することを願いながら病院に向かった。
病院に到着したのは午前2時を回っていた。
男性には心臓マッサージが施されたり、注射が打たれたりした。
しかし、
「ちょっと厳しいかもしれないねぇ」
という医師の言葉を聞いて、神山は男性の意識が戻る可能性の低いことが分かった。
そこでも神山は医師から、再度言われる。
「もうちょっと早く処置ができていたら、この人の命は助かったかもしれませんよ」
それから2時間、待合室で待った後、ワールドインテックの安全担当者がやってきたので、神山は現場に戻り、翌日のシフト作りに忙殺された。
夜勤明けの午前7時すぎ、小田原署の警察官が3人ほど、死亡事故の事件性の有無を見極めるために現場検証にきたことで、神山は、男性があの後、病院で死亡したことを知る。亡くなった男性が履歴書の身元保証人の欄に、家族ではなく、友人の名前を書いていたことも知った。倒れた当日、荷物を持ってきていたかどうかも分からないという。果たして、男性が亡くなったことが家族に伝わったのかも知らされていない。