社内で共有されない死亡事故
死亡事故後、神山は、ワールドインテックの上司に、作業中に人が倒れたときは、「最初に連絡を受けたリーダーが119番に電話するようにしましょう」と掛け合った。末端のアルバイトは、作業現場に携帯電話を持ち込むことが禁止されているため、電話ができるのはリーダー以上となる。アマゾンの指示通りエスカレのルールを守っていたら、そこで10分、15分は時間を無駄にする。その時間が、生死を分けることがあることを身をもって知ったからだ。
「けれど、結果は何も変わりませんでした。私の上司がアマゾンに進言しなかったという可能性もあります。また、アマゾンが上司の助言を聞き入れなかったという可能性もあります。どちらにしろ、アマゾンの物流センターでは、人命よりアマゾンが決めたエスカレを守ることの方が重要だということです」と神山は言う。
その後、男性が死亡したという情報が、ワールドインテック社内で共有されることはなかった。また、その事実を、朝礼などでアルバイトに伝えることはなかった。ワールドインテックの上司からは、「体調不良で倒れた人がいる」と、朝礼では伝えてくれと言われたという。理由は、アルバイトが同僚の死亡事故を不安に思わないようにという配慮からだと説明された。
しかし、現場では、倒れたアルバイトにAEDを使った応急措置をしているのを目撃した多くのアルバイトがいる。救急隊員が到着したのを見たアルバイトもいる。
「そんな小手先の子供だましで、職場でアルバイトが亡くなったことを隠せるわけもないのに」
と神山は言う。
神山は、そんなアマゾンに言いなりのワールドインテックの体質に嫌気がさしたこともあり、2017年に退職。現在は、神山の地元である名古屋で別の業種の仕事に就いている。
人命より社内のルールを重視する姿勢
神山は、私が週刊誌に書いた、2017年10月に50代の女性が小田原の物流センターで作業中に倒れてからアマゾン社員が救急車を呼んで到着するまでに1時間前後かかったという記事を読んで、「エスカレがうまくいかなければ、最悪、それぐらいの時間がかかるだろう」と思ったと言う。
「アマゾンの物流センターで何人亡くなろうとも、人命より社内のルールを重視する姿勢は変わらないんだな、とがっかりしました。しかも、人が亡くなったことはできるだけ伏せたい。そんなことでは、また、物流センターで人が亡くなることだって起こり得ます。なんとかアマゾンの現状を変えることはできないか、と思い、2016年に亡くなった男性のことをお話ししようと思いました」
作業現場でアルバイトが倒れることが多いのは、夏場だという。室内の温度は28℃に設定されている中で、時間に追われてアルバイトはピッキング(商品探し)やストーなどの作業に忙殺されるため、最低でも週に1人、多いときには1日に1人倒れる、と神山は言う。
しかし、そんな時でも、厳格なエスカレの結果、最後はアマゾンが判断して、救急車を呼ぶかどうかを判断するのだという。こうした態勢では、いつ次の不慮の事故が起こるとも限らない。
一連の経緯についてアマゾン広報に質問を送ったが、締め切りまでに一切回答はなかった。