《誰も見ていないんだったら、カッコつける必要もない。もういろいろ好きにさせてもらおうと、一気にフッ切れました。とにかく、自分が面白いと思うことは全部やってやると――。開き直りましたね、もう周りの目とかまったく気にならなくなっちゃったんですよ。
きっと、あの日、僕は「変態」になったんです》(※7)
もともと政宏も、少年時代より筒井康隆の小説を愛読したり、イタリアのパゾリーニ監督の『ソドムの市』などエログロ要素の強い洋画を好んで観ていた。のちに変態に目覚めたのには、そうした作
ロック派の政宏、ジャズ派の政伸
兄弟の共通の趣味は音楽だ。政宏は小学生のとき、宇崎竜童率いるダウン・タウン・ブギウギ・バンドを見たのがきっかけで、ロックにのめり込む。小学6年のときには、友人の兄からキング・クリムゾンのアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』『レッド』を勧められ、プログレッシブ・ロックに目覚めた。高校時代にはバンド活動を始め、下北沢や六本木のライブハウスにも出演していた。
ロック派の政宏に対し、政伸は両親の影響もあり、ずっとジャズ派である。学生時代には、来日したジャズ界の巨人アート・ブレイキーの付き人を、関係者に頼みこんで務めたこともある(※3)。役づくりの際にも、演技のイメージで曲を選ぶことがあるという。NHKの大河ドラマ『真田丸』(2016年)で戦国大名の北条氏政を演じたときには、切腹のシーンを撮る数日前に、辞世の句としてバート・バカラックの「アルフィー」の歌詞から《これからは心に従って生きていく そうすれば いつか きっと愛は見つかる》という愛の詩を引用して、脚本の三谷幸喜に書き送ったとか(※8)。
「父が亡くなってから相続トラブルはありません」
「心に従って生きていく」とは、政伸にも政宏の生き方にも通じそうだ。2人とも自分のなかの闇や変態をさらすことで俳優として幅を広げ、全盛期のハリウッド映画から強い影響を受けた父とはまた違う世界を確立したといえる。
なお、父の死後、遺産相続をめぐって兄弟の対立が一部メディアで報じられたが、政宏はこれに対し、《政伸は若い頃から「僕は実家を出るから、兄貴に全部譲る。兄貴が継げばいい」と言っていました。(中略)政伸には最近も「本当に不動産はいらないのか」と確認をしましたが、「僕は本当にいらない。早くから家を出ているし」の一点張り。ですから父が亡くなってから相続トラブルはありません》と週刊誌で明言している(※9)。同じ記事ではまた、多額の相続税を負担することになったと明かすも、《相続税が高額だからといって、AV(アダルトビデオ)に出演しなければならないほどではないですよ(笑)》と語っていたのが、「変態紳士」の面目躍如であった。
※1 『マルコポーロ』1993年10月号
※2 高嶋政伸『何の因果で』(光文社、1996年)
※3 『週刊文春』2014年10月23日号
※4 『週刊朝日』2008年4月25日号
※5 『週刊現代』2019年4月20日号
※6 髙嶋政宏『髙嶋 兄』(教育史料出版会、2002年)
※7 髙嶋政宏『変態紳士』(ぶんか社、2018年)
※8 『波』2017年4月号
※9 『サンデー毎日』2019年9月8日号