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そうなる前に孫氏はヤフーを「日本版アリババ」にしようと急いでる。その切り札が電子決済サービスのPayPayであり、ヤフー・ショッピングとのカニバリ(共食い)を覚悟の上で10月にオープンしたネット・ショッピングの「PayPayモール」である。そしてPayPayモールの集約力を上げるために実行したかったのが、ヤフーが出資しているアスクルの個人向けネット・ショッピング「ロハコ」と若者に人気がある「ZOZOTOWN」の取り込みだ。

ロハコの件は、アスクルの実質的な創業者である岩田彰一郎社長と社外取締役が「アスクルからロハコを奪うのはアスクルの(ヤフー以外の)少数株主の利益を踏みにじる行為」と反発し、ヤフーが大株主の権限で岩田氏と社外取締役を事実上「解任」する騒動に発展した。

「チャンスをつなぐためのヒットが欲しい」

これで、おおっぴらにロハコを取り込めなくなったヤフーは、返す刀で資金繰りに困っていた前澤友作氏(本人は否定)から、ZOZO株を買い取った。ヤフーがロハコとZOZOを強引に飲み込もうとしたのは、PayPayモールをアマゾンドットコムや楽天に負けないEC(仮想ショッピングモール)にするためだ。その裏には「一日も早く携帯電話事業の落ち込みを穴埋めする収益源を育てないと投資家をつなぎとめられない」というSBGの切羽詰まった事情がある。

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だが投資家の間には、SBGへの大いなる懐疑と裏腹に、絶体絶命のピンチを何度も乗り越えてきた孫氏への少なからぬ期待がある。

「Yahoo!やアリババのような満塁ホームランでなくていい。チャンスをつなぐためのヒットが欲しい」

それが孫氏の偽らざる心境ではないだろうか。

大西 康之(おおにし・やすゆき)
ジャーナリスト
1965年生まれ。88年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。産業部記者、欧州総局(ロンドン駐在)編集委員、「日経ビジネス」編集委員などを経て、2016年に独立。近著に『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)がある。