昨今、通りを行く芸妓・舞妓の写真を撮るためにしつこくつきまとったりする迷惑行為は「舞妓パパラッチ」として全国のメディアでも話題になることが増えた。しかし、彼女たちが被る迷惑はそれだけでは済まない。つきまといや腕や着物を引っ張られる被害だけでなく、着物の襟元へ煙草を投げ入れる、着物を破る等、刑事事件として被害届が出されたものもある。
しかも、これらは店の中に入れて接待をしていた酔客の乱暴ではないのだ。通りですれちがうだけの、単なる通りすがりの観光客から受ける被害なのである。このような現状からも、なぜこの街には「一見さんお断り」の文化が必要だったのかがよく分かるだろう。
オーバーツーリズムが世界的な課題へ
これまでは「いかに観光客を呼び込むか」ばかりが人々の関心事となってきたが、本意であろうが不本意であろうが、いちど「目をつけられてしまった」場所から観光客を遠ざけるのは、実はそう簡単なことではないのだ。
ちょうど、観光客に悲鳴を上げた祇園が「私道での撮影禁止」を実施した10月25日、26日にかけて、北海道で開催されていたG20の観光相会合では、地域のキャパシティを超えた観光客の増加、つまりオーバーツーリズムへの対策について議論が交わされていた。いま世界各国の観光政策における主たる課題は、誘致や促進よりもむしろ、この「観光客が増えすぎる」というオーバーツーリズムをいかに制御するかにシフトしつつある。
「なんでこんなところに観光客が!?」日本の「リアル」を求める人々
我々の社会がいま直面しつつあるのは観光を制御することの難しさである。たとえば2019年のラグビーW杯。東京新宿のゴールデン街では、押し寄せた外国人観光客で小さな店がいっぱいになり、常連客が「いつもの店」に入れないという「緊急事態」が多発したという。ゴールデン街の飲兵衛たちも「なんでこんなところに観光客が?」と戸惑ったことだろう。
それまで外国人観光客の姿などほとんど見かけなかったゴールデン街の狭い飲み屋に外国人観光客が求めているもの。それはもちろん「飾らない」日本社会の「リアル」だろう。
現在、観光客の興味関心はそれまで観光の対象とならなかったような、現地の生活者の暮らしそのものを観光対象として消費することへと向けられつつある。単に名の知れた観光名所を見物して満足するのではなく、現地の人々の「リアル」な暮らしに深く入り込んで、それに触れることを楽しむ観光客が増えているのだ。