6人のうち70代以上が5人、最年長は88歳
この日、恐山の山門脇でイタコの看板が出ていた。口寄せをしていたのはわずか1人のイタコ。5組が順番を待っていた。そのうちのひとり、県内の女性(65)は30年以上前から毎年、イタコに会いに来ているという。口寄せが終わった後、感想を聞いた。
「義理の弟が今年で13回忌を迎えるので口寄せしてもらいました。とても懐かしい思いで胸が一杯になりました。私にとって口寄せは、お墓参りと同じく欠かせない習慣です。昔は、イタコは大変な人気で、順番を待つのも一苦労でした。早朝から並んで夕刻になり、いよいよ私の番という時に『今日はこれでおしまい』となって悔しい思いをしたこともありました。最近では随分、イタコが少なくなりました」
女性が言うようにいま、イタコは消滅の危機に直面している。
近年、恐山に出張してくる正統なイタコは、1人か2人。県内で活動するイタコも全部で6人だけになっているという。うち5人が、最年長88歳の中村たけさん(八戸市)を含む70代以上の高齢者だ。「消滅」は時間の問題と思われる。
イタコ文化に詳しい郷土史家の江刺家(えさしか)均さんは説明する。
「平成の初め、恐山で口寄せをするイタコは30人ほどいました。当時は南部イタコのほかに、秋田からもイタコが集まってきた。群雄割拠のなかでイタコも生活していかねばならないため、顧客の獲得に必死です。弟子をとれば、将来顧客を奪い合うライバルになる。そうして、半世紀くらい前から弟子の養成がなおざりになり、いよいよイタコが高齢化してきて消滅寸前になっているのです」
イタコ減少の背景にある「弟子養成問題」と「公衆衛生改善」
イタコの減少は弟子養成問題だけが原因ではない。近年、公衆衛生が改善されてきたことにも起因する。昭和初期まで東北は衛生状態が悪く、たびたび伝染病が蔓延した。とくに、はしか(麻疹)は子供にとっての脅威であった。