罹患すると一命をとりとめても、失明する場合がある。光を失った女児の職業のひとつがイタコだった。ちなみに、失明した男児の職業のひとつが「津軽三味線の奏者」である。
1970年代以降は、麻疹ワクチンの定期接種がはじまり、麻疹の罹患率が劇的に減少。「イタコになる条件」を備えた女児の絶対数が減った。これもイタコが後継難にあえぐ原因となっている。
しかしながら、イタコの神秘性は盲目に起因しているともいえる。依頼者は、イタコの聴覚や嗅覚、そして感性の鋭さに驚かされる。
「降ろしてほしいのは誰かな」
依頼者はイタコに口寄せしてもらいたい故人の名前や命日を伝える。すると、にわかにイタコは呪文を唱えはじめる。そして、軽いトランス状態に入るや、イタコに亡者の魂が「憑依」して語り出す。
いかに無念に死んでいったか。今、「あの世」で何をしているか。自分の魂を降ろしてくれてうれしく思っている。みんな健康に気をつけて仲良く暮らしてほしい――。
30分程度の「口寄せ料金」は3000円
依頼者の多くは、死に別れた肉親との“対話”を通じて、涙を流す。30分程度の口寄せで料金は3000円(自宅で口寄せしてもらった場合)。本当に「故人の霊魂」がイタコに乗り移っているのか、真偽のほどを問いただすのは「野暮」というものだろう。
東日本大震災後は津波に流された肉親の「声」を聞きに、大勢がイタコを訪ねた。非業の死は、遺族には受け入れ難いものだ。そうした時、死の原因を探りたくなり、イタコにすがる。
「極楽にいて成仏しているから心配するなよ」
イタコの口から発せられる言葉を聞いて、胸のつかえが取れる遺族がいるのは確かだ。イタコは伝統仏教をはじめとする既存の宗教ではすくい取れない悲しみを、癒やす存在であり続けた。
47歳「最後のイタコ」が巫術の技術を残そうと試みる
「私は地域によりそう相談者でありたい」
「最後のイタコ」と呼ばれている、最年少の47歳の松田広子さんはいう。松田さんは盲目ではないが、幼い頃から地域のイタコと接し、憧れを募らせて、師匠に弟子入りが認められた。そして、19歳で正統イタコの証しである神札「オダイジ」と数珠を継承した。ほかの5人のイタコと比べて極端に若い。