「フィギュアスケート界の悪弊へ一石を投じる思いで提訴した」
11月18日、フィギュアスケート元五輪代表の織田信成氏(32)が、1100万円の損害賠償を求め、関西大学アイススケート部の濱田美栄コーチ(60)を提訴した。織田氏は2017年4月から同部の監督に就任したが、今年の9月9日に突如辞任。その原因は、濱田コーチからの度重なる“モラルハラスメント”にあったという。
「陰口を言われる、無視される、睨みつけられる」
監督就任前から始まった濱田コーチからの「陰口を言われる、無視される、睨みつけられる」などのハラスメント行為によって、織田氏は次第に体調を崩し、今年3月下旬から1週間ほど入院。しかし退院後も「理由なき敵意」は止まず、5月末を最後にスケートリンクへも顔を出せなくなり、遂には監督を辞任せざるを得なくなった――というのが、織田氏の主張だ。
一般に、職務上の上下関係を背景に上司が部下に身体的・精神的苦痛を与えることを「パワハラ」と呼ぶが、「モラハラ」は言葉や態度での嫌がらせによって相手に精神的苦痛を与えることを言い、当事者間の立場や地位は関係しない。そのため職場の同僚同士や、家庭の夫婦間でも起こりうる“ハラスメント”だ。
では、損害賠償が認められるほどの「モラハラ」とは、一体どのようなものなのか。織田氏の裁判における争点や過去の判例について、職場でのハラスメント問題を10年以上にわたり取り扱っている、安西法律事務所の荻谷聡史弁護士に聞いた。
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「職場でのモラハラ」に約7300万円の賠償を命じた判例
――詳しい事実関係はこれから徐々に明らかになっていくと思いますが、織田信成さんが主張しているような「モラハラ」に対して、実際に賠償が命じられた判例はあるのでしょうか?
荻谷 今回のケースは監督とコーチ間の出来事であり、基本的には「職場でのモラハラ」が問題とされている事案と捉えて良いでしょう。例えば「職場における言葉での嫌がらせ」が問題となったケースとしては、高校卒業後に正社員として勤務し始めた部下に対し、「会社を辞めたほうが皆のためになるんじゃないか、辞めてもどうせ再就職はできないだろ」「死んでしまえばいい」「今日使った無駄な時間を返してくれ」などと上司が発言していたところ、その部下が自殺した事案があります。その事案で裁判所は、上司の発言と自殺との因果関係を認め、会社及び上司に対し、遺族への約7300万円の賠償を命じる判決を平成26年に出しています。
――他方で、損害賠償が認められないケースもあると思います。その線引きはどういった点でなされるのでしょうか?