デビュー当時の松下由樹は「バリバリのアイドル女優」だった
松下由樹のデビューは1983年の映画『アイコ十六歳』。主役はオーディションで選ばれた富田靖子で、松下はヒロインの友人役として出演。その後、ダンス留学でアメリカに渡り、帰国後も音楽番組等でバックダンサーとして活動していたが、1989年、レオタード姿で踊るオープニングが印象的なドラマ『オイシーのが好き!』でドラマ初主演を果たす。
30代以下の人にはピンと来ないかもしれないが、この頃の松下由樹はバリバリのアイドル系女優。今でいう広瀬アリスみたいな存在だった。石田純一、藤井フミヤ、伊原剛志の間で“誰と付き合ったら一番オイシーか”を計算しながら雑誌編集部で働くヒロインの姿は、バブル全盛期の空気「女子が稼ぐってチョロい」を具現化していたと思う。
そして翌年、彼女は社会現象にもなったドラマ『想い出にかわるまで』で、世の女性たちから総スカンを食らう。この作品で松下が演じたのは、主人公・るり子(今井美樹)の妹・久美子。姉の婚約者・高原(石田純一)に想いを寄せ「私の方がお姉ちゃんよりずっとずっと高原さんを愛してる!」のパワーワードで見事略奪。当時、SNSがあったら、松下への罵詈雑言がTwitterのトレンドに上がったことは間違いない。
94年には『29歳のクリスマス』で山口智子、柳葉敏郎と共演。シングルマザーとして生きようと決意を固める今井彩役を鮮やかに演じ、多くの女性視聴者から支持を得る。バブルも弾け「男性に頼って生きるのヤバくない?」という空気が世に満ち始めた頃である。
元祖お仕事ドラマ『ナースのお仕事』で見せたコメディエンヌの才能
次の転換は96年の「あーさーくーらー!」。そう、観月ありさとの名コンビぶりと小気味良い展開が人気となって、2014年までシリーズ化された『ナースのお仕事』だ。今やドラマ界のメインストリームとなった“お仕事ドラマ”の下地をがっちり作った本作で、松下は先輩ナースの尾崎(沢田)翔子役を担い、病院内での立場が上がり、結婚、出産といった転機を迎える女性の悩みや仕事との向き合い方を18年に渡ってきっちり見せた。コメディエンヌとしての力をはっきり示したのもこのドラマだろう。
かと思えば、99年の『週末婚』では、永作博美演じる主人公・月子を追いつめる姉・陽子役で“心に蛇を飼う女”を演じて話題に。美貌もキャリアも併せ持つのに報われず、妹の成功に執着する様子は、仕事を離れ、家庭に入って自己を失ったとモヤモヤを抱える女性たちのひとつの分身だったのかもしれない。