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“異業種組”が宿泊業界に続々参入 空前のホテル供給ラッシュを素直に喜べない理由

紅葉シーズンの京都でも部屋が余ったが……

2019/12/03
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ホテルの基本を知らない“異業種組”が増えている

 だがいっぽうで、ホテルの供給ラッシュがいろいろな歪みをもたらしていることには注意が必要だ。私はホテルをはじめとする不動産の事業プロデュース業を営んでいるが、最近新規のホテル計画として持ち込まれる案件を見ていて危惧することが増えてきたのだ。

 この供給ラッシュには、急増する外国人需要などを見込んで、これまでホテルなどの宿泊業を行ってこなかった所謂異業種からの参入が増えている、との背景がある。それはそれで結構なことなのだが、ホテルについての基礎知識があまりに欠落した計画が多いのだ。

©iStock.com

 たとえばマンション専業デベロッパーなどが、マンションが売れなくなってきたのでビジネスホテルに参入しようとして計画した図面が持ち込まれることがあるが、ただワンルームマンションを小さくしてフロントを付けただけのような安易な計画が目に付く。最近のワンルームマンションは1部屋が20から25平方メートルだが、これを10から15平方メートルに縮め、台所を取っ払って一丁あがり、みたいな企画が多いのだ。

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新しいホテルの意外な「落とし穴」

 実際のホテルはリネン室というリネン類をストックする部屋が、できれば各階に必要なことがわかっていない。そして、大きなスーツケースを引きずる客のために廊下幅は1・6メートル以上確保したいのだが、狭小な廊下にしようとする。

 また、マンションの各住戸の玄関扉は通常は外開きだが、ホテルでは内開きが基本だ。ホテルは部屋に踏み込まれる危険性があるため、女性でも全力で扉が押せるように、通常は内開きで設計する。ホテルの共用廊下も、外廊下とするのは安全上の観点から基本的にNGだ。

 エレベーターも、客室を多く確保するために小さなホテルだと1基しか設けない企画が多いが、10階建て以上にもなると朝のチェックアウト時には大混雑となる。また、リネン交換のワゴンを乗せると客がエレベーターに乗れないなどのトラブルに陥ることがあまり考慮されていないのだ。

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 宿泊マーケットはひところのような全く予約がとれないような状況から脱し、魅力的な宿泊施設も増えてきたが、利用する側としてぜひ気を付けたいのが、利便性や安全性の問題だ。新しいホテルなどはたしかに設備も綺麗で気持ちが良いものだが、意外と落とし穴が多いのも事実のようだ。気を付けて宿泊したいものだ。

“異業種組”が宿泊業界に続々参入 空前のホテル供給ラッシュを素直に喜べない理由

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