スマホで「鮭ご飯」を作る動画を見せてくれた
そう言いながらスマホを取り出し、自分で鮭ご飯を作っている様子の動画を見せてくれた。研いだ米と茶漬け用の鮭が入った土鍋を火にかけ、炊き上がったところに刻んだ三つ葉と枝豆を加え、しゃもじを使って慣れた手つきでさっくりとかき混ぜ、茶碗によそう――。日本の居酒屋で出しても人気メニューになりそうな出来栄えだった。
「めっちゃおいしいですよ」
目をくりくりさせて、彼女はいたずらっぽい笑顔を浮かべた。
ほんの一瞬見せた〈えっ?〉という表情
さて、聞くべきことはすべて聞いた。インタビュー時間はそろそろ30分になろうとしている。ライブの開演も迫ってきているし、もう切り上げなければ。では、今日はどうもありがとうございました。私はそう礼を言って、取材を終了しようとした。
するとわずかほんの一瞬のことだったが、彼女が〈えっ?〉という表情を見せたのだ。
もしかしたら彼女は、過去のトラブルについて聞かれることも覚悟していたのか。それが事前の申し出通り、食べ物に関する質問しかされなかったから、〈本当にこれだけでいいんですね?〉と驚いたのだろうか。
あるいは日本でのこれからの自分を、まだまだ語りたかったのか。〈私のことを、もっと知りたくはないのですか?〉という心の声が、ふと顔に出てしまったのか。
今となっては、あの表情に込められた意味を知る由もない。
ハラさん“最後の単独インタビュー”に…
Zepp Tokyoでの取材から5日後、仕事帰りの駅のホームで私がのぞいたスマホが、彼女の訃報を伝えた。
翌日、チーフマネージャーにお悔やみの連絡を入れた際に知ったのだが、どうやら私は、日本で最後に彼女へ単独インタビューした人間だったらしい。
ハラさんを巡り、死の真相を探ろうとする記事が、今後まだまだ出てくるのだろう。しかし私は、そのようなことに興味はない。ただ、彼女の日本での最後の日々の姿を書き残しておくことが、せめてものハラさんへの手向けになればと、今、キーボードを叩いている。
※「週刊文春」12月5日発売号では、所属事務所の承諾を得てハラさん登場回の『おいしい! 私の取り寄せ便』を掲載予定です。