昨年夏ごろから、中国で韓国企業や韓国製品・韓流ドラマなどが強烈なバッシングを受けていたことはご存知だろうか。この韓国叩きは今年2月に入ってより激化し、いまや2012年の尖閣問題当時の反日騒ぎもかくやといった状況になりつつある。
すなわち、街で韓国車を破壊した写真が微博(中国版ツイッター)に掲載され、ロッテの菓子がスーパーや大手ネットショップの棚から撤去されたり、韓国行きのツアー旅行があちこちで中止されたりする。中国各地のロッテ系百貨店やロッテマート前では反韓デモが組織され、一部のロッテマートは当局によって閉店に追い込まれる。ロッテの中国公式ホームページも2月28日からサイバー攻撃が原因と思われるサーバーダウン状態となり、メディアがこぞってロッテ韓国本社の過去のスキャンダルを再掲載する……。といった具合だ。
従来、しばしば中国側から同様の「被害」に遭ってきた日本の経験に照らして考えても、この一連の韓国叩きには明らかに中国国内の政治的な力が働いていると見ていい。
一連の背景にあるのは、北朝鮮による相次ぐミサイル実験を受けた韓国が、昨年7月8日に米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD(サード))の配備受け入れを決定したことだ。自国の安全保障を脅かす問題として不快感を表明した中国は、昨年下半期を通じて韓流ドラマの排斥や韓国製品の輸入規制処置といった比較的弱めの圧力を韓国に対して段階的にかけ続けてきたが、韓国の態度が(中国側から見て)一向に改まらないことに激怒し、激烈な処置に出るようになった形である。
中国でロッテへのバッシングが激化した直接的な契機は、2月27日に政府がロッテグループが保有するゴルフ場の敷地の一部をTHAADの配備予定地域に指定したことだった――。という名目だが、実際は昨年12月上旬時点から同社が計画中だった大型レジャー施設「瀋陽ロッテワールド」の建設プロジェクトが中国当局による妨害を受け、やがて頓挫しており、配備地域提供の件はあくまでも口実であると見ていいだろう。
ロッテは1994年から「楽天」という中国名(日本のIT企業・楽天とは無関係)で中国市場に進出。小売店の展開や菓子・食品の製造販売など、中国の地場産業とのシェア競争が激しく、一般庶民の目にも触れやすい分野で特に存在感を発揮している韓国企業だった。ゆえにスケープゴートに選ばれたと見たほうがよさそうだ。
つい最近まで続いていた中韓蜜月時代
だが、少し前まで中国と韓国は、両国の現代史上ではまれに見る蜜月関係にあったことも事実である。
韓国は2015年の輸出の26.0パーセント、輸入の20.7パーセントを中国に頼るなど(ちなみに日本は同4.9パーセントと10.8パーセント)、中国への経済依存度が先進諸国のなかでも際立って高い。米韓同盟の枠内で中国との経済関係を深める政策は、「安米経中」と呼び慣わされてきた。
また、中韓関係が最も良好だった2015年の韓国は年間約600万人の中国人観光客を受け入れており(ちなみに日本人観光客数は約180万人)、観光収入の面でも完全に中国頼りだ。一昔前までは日本語の看板だらけだった繁華街の明洞や東大門も、いまや簡体字の看板で埋め尽くされ、街では若者層を中心に日本語よりも中国語の通用率のほうが高くなっている。
しかし、やがて韓国は「安米経中」からさらに踏み込んで中国と接近することになる。2015年9月3月に北京で開かれた「中国人民抗日戦争及び世界反ファシスト戦争勝利70周年記念式典」に、朴槿恵は西側首脳として唯一出席。習近平やプーチンとともに天安門に登壇して人民解放軍の閲兵を見守り、日本をはじめ西側各国に衝撃を与えた。韓国は同年12月に中国主導で発足したAIIB(アジアインフラ投資銀行)にも4兆ウォン(約3900億円)以上を出資して創立メンバーに名を連ね、AIIBの副総裁に韓国人を送り込むことにも成功している(ただし、この副総裁は最近の中国による韓国バッシングの開始を契機に解任された)。
中国は1894年の日清戦争まで、2000年以上にわたり朝鮮半島の宗主国として振る舞ってきた歴史を持つ。近年の韓国の対中接近は、中国側にしてみれば往年の「朝貢国」が再び中華の徳を慕って戻ってきたように感じられたようだ。
結果、中国は韓国への返礼としてハルビンに安重根義士記念館を建設、西安に韓国光復軍(大戦中の大韓民国臨時政府が組織した武装組織)の記念碑を建立、上海にある大韓民国臨時政府の史跡を中国側全額負担で改修するなど、本来の同盟国である北朝鮮の立場を無視してまでも韓国に恩恵を与えてきた。
中国にしてみれば、韓国を完全に自国側の陣営に取り込み、かわいい弟分として従えることに成功したという認識である。だが、これは韓国側の主観的な認識とは大きなズレがあった。