「朝貢国」と「独自外交」という同床異夢が招いた悲劇
現在、私は講談社ビーシーから刊行予定で、現代韓国研究者の浅羽祐樹氏(新潟県立大学教授)と木村幹氏(神戸大学教授)の対談書籍を編集する仕事を進めている。この対談時に両氏からうかがったところでは、2015年当時に過度の対中接近外交をとったように見えた韓国の外交当事者たちの間に、「西側陣営からの離反」という意識はまったくなかったという。韓国は中国と日本に次ぐ東アジアの三番目の主要国として、アメリカと中国に対して独自の等距離外交を志向する心づもりだったというのだ。
朴槿恵が天安門の壇上で人民解放軍の閲兵式を眺めたのも、アメリカからTHAADの配備を受け入れたのも、韓国にしてみればバランスを取った等距離志向ゆえの判断だった模様である。
だが、中国から見て韓国のこうした動きは、いちどはアメリカ側から自分たちの軍門に降った「朝貢国」が、再び中華の徳を裏切ってアメリカ側に戻るという忘恩の行為に見えた。中国にとっては、THAADの配備による安全保障上の懸念はもちろんながら、それ以上に韓国が自国のメンツを潰す振る舞いを取ったことへの怒りが大きかったと見るべきだろう。
結果、導かれたのが現在の韓国バッシングという苛烈な報復行為だった。中国は今年5月に約60カ国の首脳や閣僚級を招請して実施予定の一帯一路(新シルクロード経済圏)首脳会議に韓国を招聘しないなど、韓国を「朝貢国」の対象カテゴリーから故意に外すという非常にいやらしい仕返しもおこなっている。
韓国は現在、辞任の可能性が濃厚となった朴槿恵の後継となる大統領選を控えている。中国がここまで強烈な圧力をかけているのは、次期韓国大統領に対して、再度「朝貢国」に戻るべく踏み絵を突きつける意味合いもあると考えていいだろう。1950年の朝鮮戦争以来久しぶりに、韓国は米中2カ国の狭間に立たされる苦しい状況に置かれているのだ。