2017年アカデミー賞が発表になりました。いやー、今年は見所が多かったです。
まず史上最多ノミネートタイで話題だった『ラ・ラ・ランド』が、そこそこの受賞で終わったこと。いま現在も傑作か否か、非常に感想が割れています。この『ラ・ラ・ランド』によって、弱冠32歳という、史上最年少で監督賞を受賞したデイミアン・チャゼル。前作の『セッション』もそうですが、彼の作品は感情的な批評を招くのが特徴的です。
たとえば『セッション』はまず、音楽の鬼教師と教え子の、厳しい音楽道を描いた良い話かもと観客に思わせます。しかし実際には、パワハラ加害者が、自分のステージを台無しにしてまで、パワハラの証言をした人物へ復讐しようとする呪詛の映画とも言えると思うんですよね。でも呪詛を受ける側も、音楽のために私生活を全部犠牲にしている、相当な代物なので、狂人VS狂人の様相を帯び始め、最後は狂気の中で互いに高揚感に至るという、妙な映画なのです。
わたしはその「常識のない人同士のバトル」という点が面白かったのですが、「音楽家にはありえない」「そういう話じゃない」という賛否両論を招くのは、当然だと思います。でも、解答が一つではない映画や、今回のようにスタイルが異なる映画を立て続けに撮れたのは、まだ手の内に、語ることや表現方法が多くある余地を感じるので、やはり楽しみな監督です。
プレゼンターで受賞作がわかる場合もある
それと、近年のアカデミー賞は一作に受賞が集中することなく、散らす傾向があります。今回は『ラ・ラ・ランド』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『ムーンライト』『ハクソー・リッジ』が、受賞を分け合った感がありました。
脚本賞は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が受賞。監督・脚本はケネス・ロナーガン、主演はベン・アフレックの実弟ケイシー・アフレック。時々、プレゼンターとして誰が登場するかによって、受賞作の予測がつく場合があります。今回も脚本賞のプレゼンターに、ベン・アフレックと、本作の製作に名を連ねるマット・デイモンが登場したので、(ああ、『マンチェスタ~』だな)とわかるのでした。
そして、アカデミー賞始まって以来の珍事! 思わずテレビに向かって「えっ!なに?」と話しかけてしまったほど驚きました。最後を飾る作品賞で、『ラ・ラ・ランド』と発表されながら、実際は『ムーンライト』が受賞しており、壇上で訂正されるという前代未聞の出来事。喜びに溢れて謝辞を述べている最中に、耳打ちされて顔色が変わっていく『ラ・ラ・ランド』組。そして突然「発表は間違いだ」と言われて壇上に呼ばれたものの、弾ききれない『ムーンライト』組。それぞれの映画のチームが気を使って慰め励まし合う中で、あまりのハプニングに笑えてきてしまっているライアン・ゴズリングは救いでしたね。