花形以降、井上さんは、本宮ひろ志原作の『男一匹ガキ大将』(’69年)の片目の銀次役や『男どアホウ甲子園』(’70年)の主人公・藤村甲子園役など、破天荒で反骨精神溢れるキャラクターを演じる機会が多くなるが、そのイメージはやがて“孤高の一匹狼”的キャラクターに昇華されていく。その代表的なキャラクターのひとつが先の石川五ェ門(二代目)であり、キャプテンハーロックだった。
寡黙なサムライと、一匹狼の宇宙海賊のはざまで……
原作及びアニメ1作目の五ェ門は、人でも物でもやたらめったら斬りたがり、峰不二子(声・二階堂有希子)にも色目を使うナンパなキャラでもあった。その声は大塚明夫のお父君、名優の大塚周夫が演じて“侍の狂気”を表現していた。井上さんが演じたことで二代目五ェ門は、真逆と言っても差し支えない“寡黙な侍”となった。『ルパン三世(TV第2シリーズ)』第108話「哀しみの斬鉄剣」(脚本:岡本一郎/コンテ・演出:御厨恭輔)では、女性に免疫がなく、決して無益な殺生などせず無駄に斬ったりもしない、五ェ門の“侍スピリッツ”が描かれ、それは劇場版第1作『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(’78年)、第2作『ルパン三世 カリオストロの城』(’79年)の五ェ門像に継承されていく。
特に『カリオストロの城』では名匠・宮崎駿の筆に乗り、不二子(声・増山江威子)とともにルパン(声・山田康雄)や次元大介(声・小林清志)のサポートに徹し、“陰ながら”悪(時に車も)を痛快に斬り捨てていく様がかっこよかった。これには“じつは宮崎駿がこの映画に五ェ門を登場させたくなかった”という説もあるが、やはり井上さんの声のイメージに引っ張られた“キャラ変”の結果だろう(もちろん初代の大塚さんもかっこよかったが、かっこよさのベクトルが異なる)。
もうひとりのハーロックは、今さら書くまでもない孤高の宇宙海賊だが、親友の忘れ形見の少女・まゆ(声・川島千代子)のために戦い、友と同志のためには命も惜しまないその生き様に、井上さんは見事、その美声で魂を吹き込んだ。
実写ぬいぐるみキャラクターに“反骨の魂”を吹き込んだ
そんな、井上さんが演じたキャラクターで筆者的に忘れられない存在がいる。井上さんの経歴の中では比較的珍しい実写特撮ヒーロー作品『アクマイザー3』(’75年)の主人公ザビタンだ。『原始少年リュウ』(’71年)など(井上さんは主人公リュウの声を演じた)で井上さん自身も縁の深い、石ノ森章太郎原作のこの作品は、“脱変身”を狙った意欲作で、井上さんは、“人間が変身しない”主人公ザビタンの声を演じた。言ってみればぬいぐるみ人形劇なのだが、表情を持たない仮面の戦士を子供たちにかっこよく見せ、感情移入させるには声が大事と考えたスタッフが白羽の矢を立てたのが井上真樹夫という声の名優だった。