ザビタンも同胞のアクマ族に反旗を翻した孤高の反逆児だが、自分を殺そうとした相手でも許し、決して殺そうとはしない。そんな彼の行動に疑問を抱いた討伐隊員のひとりガブラ(声・八奈見乗児)が「お前を殺そうとしたわいを、なんで二度も助ける? なんで?」と聞けば「アクマと同じことをしたくないからだ!」と毅然と答える。当時これを観た小学生の筆者は、ザビタンのように決して他人を手にかけることのないように生きたい……と強く思ったものだ。それも井上さんの“孤高の声”の為せる業だったことだろう。
一介のファンにも心遣いを忘れない
大学生のとき、筆者は井上さんにファンレターを送り、『アクマイザー3』の同人誌に掲載するためのアンケートにお答えいただけるようお願いした。ダメ元だったが、井上さんは一介のファンでしかない自分に、ご丁寧なお返事と直筆記入のアンケート用紙を送り返してくださった。そこには当時のアフレコ秘話とともに、『アクマイザー』のようなマニアックな作品でファンレターが届いたことに驚いた思いを正直に吐露されており、「せいぜいガムバッテください」と締め括られていた。一見すると突き放したような書き方だが、『虹のシャワー』(’82年/朝日ソノラマ刊)等の井上さんのエッセイを読んだ者なら分かるとおり、井上さん一流のフランクさとユーモアを交えた激励で、思い出すだけで胸が熱くなる。
声だけでなく、生き方そのものがイケメンだった井上さん。その孤高の存在と精神は、ザビタンや五ェ門、ハーロックら井上さんが演じた数多くのキャラクターとともに、永遠に生き続けることだろう。