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女性が恋愛市場から仕事市場にうつるとき

『男ともだち』の千早茜×『ワンダフルワールドエンド』の松居大悟による恋愛トーク(2)

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「選ばれ続けなればいけない」という不安

 

千早 仕事市場で生きていると「自信があっていいよね」と言われちゃうんですが、私はすごくネガティブで、自信があるわけじゃないんです。だから、誰かに選ばれたら、ずっと選ばれ続けなきゃいけない気がして不安になってしまう。自分ではない誰かの評価を維持しながら生きることは、私には無理だなと思います。だから好きなものを追いかける。

松居 ぼくもすごく自信がなくて、理由がないと人に会えないんですよ。なにもなくて友達に会うとなると、大事な時間を自分なんかのために使わせてと思ってしまう。

千早 男性は女子会みたいに愚痴を言い合うためだけに集まったりしないんですね。女性に対してもそうなんですか? 恋人に「会いたいから来て」とか言わない?

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松居 言えないですね。だからあんまりうまくいかないんですよ(笑)。

「世界の終わり」を迎えたふたりが見たい

松居 だからハセオのこともわかる。神名に彼氏が出来たら傷ついてると思うんですよ。ハセオにとっては、神名は特別な存在なんですよね。たくさん恋人がいるようなことを言うけど、それは神名の気をひくためで、本当は孤独なんじゃないかとか、妄想したり。実はすごく切ない奴だし、その気丈に振る舞ってる様が愛しいなと思いました。

千早 それは面白い見方ですね。

松居 ハセオに白髪があるのもそうで。

千早 きっと白髪体質なんだよ(笑)。

松居 大切すぎて抱きしめられないんじゃないかと思う。

千早 ハセオが切なく思えてきました(笑)。ただ、何年かして自分が書いたものに救われることがあるんですね。終わりのほうで「全部変わるんだよ」とハセオが言うんですが、神名は嫌だと突っぱねるんです。でも今読むと、変化することも良いと思うんですよね。書いたことで受け入れられるようになった。

松居 それはハセオが先手を打ってるんじゃないかと思うんですよ。ぼくは、「世界の終わり」をふたりで迎えた次の日の朝のハセオの姿がすごく見たいんですよね。

千早 『男ともだち』はひとりで生きる強さを描いた作品なんです。でも、ふたりで生きる強さはまた別。そういうものも書いてみたいし、松居作品でも見てみたいです。これからも楽しみにしています。今日はありがとうございました。

松居 ありがとうございました。まだ話したりないですけど。今日、寝る前に、あ、あれも話しておけばよかった! と思い出しそうです。

千早茜(ちはや・あかね)
1979年、北海道江別市生まれ。立命館大学文学部卒業。2008年、「魚」で第21回小説すばる新人賞受賞。受賞後「魚神」と改題、09年、『魚神』で第37回泉鏡花文学賞受賞。13年、『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞受賞、第150回直木賞候補。14年、『男ともだち』で第151回直木賞候補、15年、同作で第36回吉川英治文学賞新人賞候補。
 

松居大悟(まつい・だいご)
1985年、福岡県北九州市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。劇団ゴジゲン主宰。12年、『アフロ田中』で映画監督デビュー。最新監督作は16年『アズミ・ハルコは行方不明』(第29回東京国際映画祭コンペティション部門出品・ロッテルダム国際映画祭2017出品)。現在、監督をつとめるテレビ東京ドラマ24「バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」が放送中。17年、手掛けたクリープハイプ『鬼』MVが第21回SPACESHOWER MUSIC AWARDSにてBEST CONCEPTUAL VIDEO受賞。

写真=文藝春秋 

男ともだち (文春文庫)

千早 茜(著)

文藝春秋
2017年3月10日 発売

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