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博多大吉「実は地方芸人のほうが成功しやすい、5つのメリット」

「文藝芸人」地方芸人の生態論

2017/03/24
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地方芸人の特権

■メリット1:ライバルが少ない

 まずは、これに尽きる。僕の場合、福岡吉本の同期芸人はたったの6人だった。27年も前の話は参考にならないと言われそうだが、それでも、たとえば地方吉本の中では所属芸人が多いと言われている福岡吉本でさえ、実質は50人ぐらいであることを僕は知っている。たった50人、しかも僕らの同期2人を含む全体で50人なのだ。この春にNSCという芸人養成所を卒業して芸人になろうとする者だけで250人という東京吉本と、その生存競争は比べるまでもないだろう。経験者の感覚として、50人中上位5組に入れば、そこそこの仕事はある。それだけで何とか食っていけるのだから、そんな環境で売れっ子芸人を目指せるなんて幸せでしかない。

■メリット2:舞台に立てる

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 多種多様なビジネスを展開している吉本だが、基本的には劇場優先というスタンスは昔から変わらない。全国の直営劇場では年中無休で様々な公演が行われていて、そこでは全世代の芸人が連日しのぎを削っているのだが、47都道府県で考えると、直営劇場がないという地域の方が圧倒的に多い。しかしそんな状況でも、吉本という会社は頑なに芸人を舞台に立たせようとする。100回の練習よりも1回の客前を重視する吉本は、各地域に存在する様々な貸ホールなどを借り、定期的に自主公演を行っているのだ。以前は直営劇場があった福岡吉本も、今はこのスタイルで頻繁に公演を開いているが、そうは言っても、さすがに直営劇場のような公演数は望めない。多くても月4回、週1ほどのペースになってしまうが、それでも、直営劇場で週1の出番をもらえる芸人は、かなり多く見積もっても全国で100組ぐらいだろう。ほとんどの吉本芸人がそこまで到達できない現実に思いを馳せれば、ライバルが少ないが故に、ほぼ無条件で舞台に立てる地方吉本の環境は、最高でしかない。

■メリット3:営業に呼ばれやすい

 どこの世界もそうだろうが、売れてない芸人にとって、舞台という仕事はありがたい反面、お金にはならない。いくら自主公演で客席が埋まったとしても、会場代などの諸経費を引いてしまえば、売れてない芸人に支払われるギャラは数百円程度だろう。だが、地域のお祭りや各種パーティーといった、いわゆる芸人の「営業」と呼ばれる仕事は違う。たとえ売れていなくても、少なくとも数千円の収入は見込めるから、これは何としてでもありつきたい仕事なのだ。ただし、営業という仕事はギャラが良いからこそ、それだけの金額を主催者側が払うからこそ、ある程度は有名な芸人にしか声はかからないという特性がある。基本的に売れてない芸人は呼ばれないのだ。しかし、長きに渡って平成不況が叫ばれる昨今では、売れている芸人になればなるほど、その高額なギャラがネックとなり、主催者側は呼びたくても呼べないという場合が多い。そしてそんな時代だからこそ、地方芸人に神風が吹いているのだ。そんな状況でも、限られた予算内で芸人を呼ぼうとする自治体や会社は、いつの時代も一定数、確実に存在する。地方吉本とはいえ、いや、地方だからこそ「吉本」というブランド力は絶対的で、とりあえず「吉本の芸人」という肩書きがあれば営業に呼んでもらえるのだから、このチャンスを逃す手はない。

■メリット4:テレビ出演のハードルが低い

 たとえば、在京キー局でテレビに出ようと思ったら。いったいどれだけのオーディションを勝ち上がらなければならないだろう。ネタ番組だろうが、トーク番組だろうが、中継レポーターだろうが、そこまでに何人の同業者を倒さなければならないのか、それは考えただけでゾッとするほどの、遥かに遠い道のりだ。しかし、地方だとそのハードルはガクンと下がる。いわゆるローカル番組は意外なほど多く存在するし、どの地域でも複数の情報番組が作られているから、身近な数少ないライバルを倒して、そこに潜り込むことさえ出来れば、定額のギャラも保証されるし、営業にも呼ばれやすいしで、当分の間は安泰である。もちろん、東京と比べるとロケやスタジオの規模は違うし、番組の内容も芸人である必要性は乏しいかもしれないが、しかし、テレビに出演しているという点においては、そこで必要とされる技術という点においては、基本的に同じなのだ。ここで場慣れしておくことの重要性に、地方芸人はもうそろそろ気づいて欲しい。

■メリット5:売れている芸人と仲良くなれる

 全国展開中の吉本という会社の性質上、売れっ子芸人が地元にやってくる機会は年々増えている。そんな時、実は頼りにされるのが地方芸人だ。せっかく来たのだから、しかもそれが泊まりだったら、そこの名物でも食べて楽しく飲んで帰りたい。そう考えた売れっ子芸人は大抵の場合、はじめましてのイベンターさんや地元テレビ局のスタッフさんよりも、そこは同じ芸人同士、あまり気を使わずに済む上に、ちゃんと最後まで街を案内してくれる、そんな地元芸人を誘うのだ。そこで培われた関係性は、いつか東京で日の目を見るかもしれない、プライスレスな財産となるだろう。ちなみに今の福岡には、特番をやっている関係で数ヶ月に一度、ダウンタウンの松本さんがやって来る。宴席を共にすることは無理にしても、福岡吉本に本気で頼み込めば、同じ事務所の後輩なのだから、せめて挨拶ぐらいはさせてもらえるだろうし、タイミングさえ合えば収録現場だって見学させてもらえるハズだ。東京で松本さんに挨拶しようと思ったら、松本さんの現場に顔を出そうと思ったら、どれだけの手順を踏まなければならないのか。僕は、このアドバンテージを活用しない地方芸人の、気が知れない。

 

 どうだろう? これだけのメリットがあるのならば、もはや東京や大阪ではなく、全国の地方吉本で芸人になった方が、逆に有利ではないだろうか。それは言い過ぎかもしれないが、地方吉本という可能性は、将来的に売れるための戦略として、選択肢のひとつに十分なり得るような気がするのだが。

 

 しかし、現実は甘くない。

 ほとんどの地方芸人は、出口のないトンネルに迷い込み、今この瞬間も、もがき苦しんでいる。

 なぜならば、それぞれのメリットには、それぞれにデメリットが表裏一体に潜んでいて、残念ながらほとんど全ての地方芸人は、そのデメリットの方ばかりに足を搦め取られているのだ。

 そこも、あらためて確認しよう。

※本記事は「文藝芸人」(文春ムック)からの抜粋です。全文は誌面でご覧ください。

文藝芸人 (文春ムック)

文藝春秋
2017年3月16日 発売

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