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「作る側がどれだけマンネリに耐えられるか」“紅白歌合戦”で9年間白組司会を務めたアナウンサーの提言

#1『私の「紅白歌合戦」物語』「“紅白”よどこにいく」より

2019/12/17
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「これがなきゃだめなんです、って言えるかどうか」

 また、「第60回紅白」の時に、阿久悠さんがインタビュー(ステラ臨時増刊「NHK紅白60回」平成22年NHKサービスセンター)に答えての発言が面白い。

「家族そろって、みかんを食べながらテレビを見る時代と、できれば家族の顔を見たくない今とは違いますよね。大晦日に家にいるなんてのはヤボだという考え方の若者も多い。

 これだけ選択肢の多い時代に、それでもこれだけの視聴率を取っているというのは、僕に言わせれば異様なことですよ。

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 今後は作る側がどれだけマンネリに耐えられるかだと思いますね。『今どき家族そろって、みかん食ってる人がどこにいるんだよ』なんて言われても、『これがなきゃだめなんです』って言えるかどうかだと思う。ジャーナリスティックな感覚で時代性を追いかけるより、マンネリ承知でがまんするほうがはるかにたいへんなんです。どんなしゃれたこと、あか抜けたことをしたって、しょせん紅と白のボールで勝敗を決める原始的なことをやっているわけだから、もっとこれでいいんだっていう度胸があったほうがいい。リクエストのランキングでもなければ、プロダクションの圧力でもない、『紅白』独自の価値観を持つ必要があると思います」

「紅白」はナマのよさを最大限に発揮してほしい

 私は、司会者を体験した1人として、阿久さんが言ったように、「紅白」に“独自の価値観”を持ってほしい。「良いものを作るために全力を尽した」という自信は大切である。右顧左眄(うこさべん)せぬ信念が「紅白」の番組づくりには必要だ。