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「作る側がどれだけマンネリに耐えられるか」“紅白歌合戦”で9年間白組司会を務めたアナウンサーの提言

#1『私の「紅白歌合戦」物語』「“紅白”よどこにいく」より

2019/12/17
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 一昨年(平成29年)の「第68回紅白」は、なかなか評判がよかった。個人的には、髙橋真梨子の『for you ...』の熱唱がうれしかったし、引退する安室奈美恵の映像も美しかった。ただしNHKホールではなく、別撮りらしく、やっぱり「紅白」はナマのよさを最大限に発揮してほしい。かねてから私は「放送と魚はナマに限る」と言っているが、ナマは正直でウソがない。「紅白」も、どんなハプニングがあっても、ナマの魅力を存分に活かして対応すべきである。この時に、司会者の腕が試される。2年続けて総合司会に起用された内村光良は、さほど己を押し出すことなく、役目をしっかり果していた。しかし、「総合司会者」を強調すると、「紅白両司会者」の存在感や合戦の味は薄らいでしまう。その折り合いも課題として残った。また、厳正な審査をする審査員を軽々しく舞台に上げて、いろいろ使い回す愚はやめるべきだ。

 昨年(平成30年)の第69回「紅白」で、最後を特別出演で締めくくった桑田佳祐のサザンオールスターズは、これまで大晦日の自分のコンサート会場からの中継だったが、NHKホールにナマで登場し、松任谷由実と抱き合うなど、ハプニングも含めてスリリングだった。今後の「紅白」も、ナマのよさを最大限に利用するべきだ。

1年の締めくくりにふさわしい最高のエンターテインメントに

 時は流れ、人は変る。「紅白」は、その年の出来事を写す鏡になり、敏感に時流を取り込む役目も負っている。「紅白歌合戦」は、“70回”という長い時間をかけて作り上げた番組だ。その折々に制作にかかわった人々の意識と判断が積み重なっている。「紅白歌合戦」というタイトルを続ける限り、「紅」と「白」の男女の彩(いろど)り、「歌」の重要性、「合戦」の組意識だけは堅持したい。

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©iStock.com

 とにかく、1年の締めくくりにふさわしい最高のエンターテインメントを作り上げ、老若男女に感動を与え、これも長寿番組「ゆく年くる年」の“除夜の鐘”にしっかりとつなげてほしい。

私の「紅白歌合戦」物語 (文春文庫)

山川 静夫

文藝春秋

2019年12月5日 発売

「作る側がどれだけマンネリに耐えられるか」“紅白歌合戦”で9年間白組司会を務めたアナウンサーの提言

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