1ページ目から読む
3/3ページ目

 ただ、当の西田は、自分が番組のカラーを変えてしまったことに対し、どこか後ろめたさも抱いていたようだ。局長退任を表明したときには、《僕が局長をやりはじめてたまたま感動して泣いてしまったことをきっかけに、どんどん依頼内容に感動系が増えていってね。渇いた笑いと濡れた感性を50:50にして進めていきたかったけど、僕の場合、濡れた感性のほうが多くなっちゃった(笑)。軌道修正していかないとこの番組のコンセプトが薄れるという危惧があったので、ぼちぼち退くべきだなと》と打ち明けている(※3)。退任の理由としてはほかにも、今年72歳になり、番組収録のため隔週で大阪に来るのが体力的にだいぶしんどくなってきたこともあげた。

初回の松本はコメントがいまひとつ弾まなかった?

 西田の発言を踏まえると、今回の松本の局長起用には、「濡れた感性」のほうに傾きがちだった番組を、もう一度「渇いた笑い」のほうへ戻そうという意図もあるのだろう。もっとも、11月22日の放送の終わり際、西田から後任として紹介された松本は、《この番組が大好きな人は、松本が出てきたら番組のカラーが変わっちゃうかなとか言うかもしれないですけど、僕一人でカラーが変えれるようなヤワな番組だとは思ってません》と遠慮がちに語り、西田から逆に《どんどんカラーが変わってていいです》とエールを送られていた(※4)。

 引用した松本の発言からは、彼が30年間続いてきた番組を引き継ぐことの重さを十分すぎるほど感じているのがうかがえる。そのせいか、局長となって最初の放送では終始どこか硬さがあったように思う。この回では、視聴者から「ぬるま湯を張った浴槽に、頭を下にお尻を上にした状態でしばらく潜っていると、母親の胎内にいた感覚を思い出す」という小ネタを提供され、間寛平探偵(70歳)が、実際に風呂で素っ裸になって試していた。大先輩の体を張ったレポートに、松本があきれながら「あれ見てわかったのは、(ロケ現場が)線路沿いの家なんやなっていうこと」だけ(VTRに電車が通る音が入り込んでいたため)と斬り捨てていたのは彼らしかったが、ほかのVTR後のコメントはいまひとつ弾まない感じであった。

ADVERTISEMENT

松本新局長で「ナイトスクープ」はどう変わるだろうか ©文藝春秋

「やらせってことはない?」にツッコミ

 しかし、12月6日の2回目の放送を見る限り、しだいに硬さもとれつつあるようだ。オープニングでは、この日の番組顧問の歌手・円広志(番組主題歌「ハートスランプ二人ぼっち」の作者でもある)を紹介したあとで、「局長は円さんでもいいんじゃないかって話もあったんですけどね」と話を振り、円が「ないない」と苦笑しながら否定すると、「言った人がボコボコにされたって」とボケてみせた。

 また、この日の依頼のひとつ「亡き夫の釣竿でイシダイを釣りたい」のVTRは、奇跡的な結末を迎えて感動巨編となったが、松本は西田のように涙は見せず、「僕の番組ね、ちょっとあったんですけど、やらせってことはない?」と口にして、探偵たちからツッコまれていた。このコメントはもちろん、松本の出演していた他局の番組がやらせ問題で打ち切られたのを踏まえたものだ。西田がほとんどできなかった「渇いた笑い」を、さっそく実行したともいえる。

 こうしていざ“松本探偵局”が始動してみると、彼が新局長に迎えられたのは何より、VTRに対する「的確なボケ」を求められてのことだとしだいにはっきりしてきたように思う。相方の浜田雅功がいない分、探偵たちが一斉にツッコミを入れるのも、今後お約束の光景となりそうだ。「理詰めの上岡」、「泣きの西田」に続く、「ボケの松本」は、果たして『ナイトスクープ』にどんなカラーをもたらすのだろうか。

※1 松本修『探偵!ナイトスクープ アホの遺伝子』(ポプラ社、2005年)
※2 KansaiWalker編集部『探偵!ナイトスクープWalker』(KADOKAWA、2018年)
※3 「Lmaga.jp」2019年10月25日配信
※4 「ラフ&ピースニュースマガジン」2019年10月26日配信